第60章 彼は失礼すると言った

「失礼します!」

大和田瑞は言いながら入っていった。

高橋真子は潔癖症ではないが、脅迫されるのは絶対に好きではない。彼が近づいてくるのを見て、彼女は尋ねた。「あなたの腕は藤原月に折られたのでしょう?」

「……」

大和田瑞は固まった。

「もし彼が私を脅したことを知ったら、もう片方の腕も無事では済まないでしょうね?」

高橋真子は逆に彼を脅した。

実際、彼女は藤原月が自分のために何をしてくれるのか全く確信が持てなかった。

しかし大和田瑞は、この言葉を聞いて思わず笑った。「高橋さんはご存じないでしょうが、この腕はあなたのために折られたんですよ!」

「……」

「詳しい理由を知りたければ、私についてきてください!」

大和田瑞は道を譲った。

高橋真子は、あの朝、藤原月のキッチンで聞いた電話の会話を思い出し、決意を持って彼について行った。

しかし病室の前で、大和田瑞は思わず立ち止まり、彼女に言った。「入る前に首を隠していただけませんか?」

高橋真子は一瞬驚いたが、理解すると冷たく答えた。「申し訳ありませんが、できません」

大和田瑞も私心があったが、考えた末、道を譲った。

高橋真子が詩織の病室に入ると、大和田瑞は外に立っていた。

詩織はベッドの端に座って彼女に微笑みかけ、隣を叩いた。「真子、こちらに座って」

「立っていいです」

高橋真子は簡潔に答えた。

「あなたが小さい頃から月のことを好きだったのは知っています。だから彼の正式な彼女である私に対して色々と不満があるのでしょう。でも真子、私たちは幼なじみでしょう?本当にライバルにならなければいけないの?」

詩織は大家の令嬢らしく、物分かりの良い様子を見せた。

高橋真子はその言葉を聞いて耳障りに感じたが、静かに聞いているだけだった。

彼女は詩織とどうこうしようとは思ったことがなかった。結局、自分は健康な人間なのだから。

そして詩織は……

末期がん!末期の心臓病!

高橋真子は自分が寛容だとは思っていなかった。ただ理不尽なことはしたくなかっただけだ。

詩織は続けた。「実は、あなたが病院に来たと知った時、このことを話すべきか迷っていました。話さないと良心が痛むけど、話したらあなたが月を恨むんじゃないかと心配で」

「……」