第153章 シンシン、私を受け入れてみて

高橋真子は無意識に振り返って彼を見た。彼の笑顔は現れるのが早く、消えるのも早かった。冷たい表情で車を発進させた。

風が吹き抜け、彼女の新しいコートが開き、心にも冷たさが染みた。

彼が先ほどあんなことをしたのは、木村清を見たからなの?

クソ男。

演技好きのクソ男!

藤原社長は社長なんかじゃなくて、俳優になるべきだわ。絶対に賞を総なめにできるはず。

彼がいたら、あの名優たちなんて、まったく大したことないわ。

高橋真子は彼を非難する考えを止め、少し気まずそうに木村清を見た。木村清は淡く微笑んで「入りましょう」と言った。

「はい!」

高橋真子は頷いて答えたが、数歩歩いた後で突然立ち止まり、また木村清の方を向いて「最後に彼が何て言ったか聞こえました?」と尋ねた。

「番組が終わったら空港まで迎えに来るって言ってたわ」

「ああ!」

高橋真子は呆然と頷いた。

空気はさらに気まずくなった。

彼が本当に迎えに来るのが怖くて、高橋真子は放送局を出るとすぐに彼にLINEを送った。「来なくていいわ。同僚が空港まで乗せてくれることになったから」

彼にもう会いたくなかった。

むしろ、次に戻ってくるときは、こっそりと帰ってきたかった。

同僚の病状もだいぶ良くなってきたし、高橋真子は年末までは帰ってこないでおこうと考えた。

余計なことが起きないように!

でも、放送局を出たばかりなのに、なぜ黒い高級車が階段の下に停まっているの?

高橋真子は胸が締め付けられた。この車は見覚えがないけど、直感的に藤原月のものだと分かった。

運転手が先に降りて、彼女の側に回って後部ドアを開け、彼女が近づくと非常に丁寧に挨拶した。「奥様、社長様がお待ちです」

藤原月は携帯を見ていて、彼女が外に立っていても急いで招き入れようとはしなかった。

彼女にこのLINEについて説明させてやろうと思っていた。

高橋真子は頷いて中に入り、彼の向かいに座った。

藤原月はようやく彼女を一瞥し、運転手がドアを閉める時に「こっちに来い」と命じた。

「ここでいいです」

彼女は警戒するように彼を見て、それから従順に膝の上の手を見つめた。

藤原月は気にせず、車が発進した時に突然前方を蹴った。

運転手が急ブレーキをかけ、高橋真子の体は反射的に前のめりになって、前方に勢いよく傾いた。