第1章

「ママ、見て！私の病気が治ったの！もうお金を集める必要ないよ。パパに迎えに来てもらおうよ！」

病床の上で元気な振りをする美咲を見て、私の目が赤くなってきた。

美咲の病気は先天性の心臓病で、生きるためには心臓移植を待つしかなかった。

私は前に出て美咲を抱きしめた。

「バカね、手術費用はパパとママがもう集めたのよ」

「今のあなたの仕事は安心して治療に専念すること。手術が終わったら、私たちと一緒に帰れるわ」

美咲の目が急に輝きだした。

「本当？じゃあパパとママはもうこんなに苦労しなくていいんだね！」

「よかった！パパがずっと来てくれないから、もう私のことを嫌いになったのかと思ってた」

私の心が痛んだ。

彼は実は上の階にいるのに……

柳田千春の足が火傷してから、藤原勇人は24時間彼女の側について細やかな世話をしている。

こんなに近くにいるのに、私たちに会いに来ようともしない。

私も彼と話し合おうとした。

でも私が何を言っても、彼の口からは私の嫉妬や焼きもちだと片付けられてしまう。

おそらく柳田千春が現れた最初の日から、藤原勇人の変化に気付いて、この関係を終わらせるべきだった。

でも美咲に完全な家庭を与えたくて、我慢することを選んだ。

唯一の救いは、少なくとも美咲の治療費を惜しまなかったことだ。

今回、美咲の手術費用を集めるため、家を売ってもらうよう彼に頼んだ。

彼も一言も反対せず、手際よく事を済ませた。

美咲の病気が治るなら、他のことは知らないふりができる。

美咲が一度咳をして、私の思考を現実に引き戻した。

私は憂鬱な気持ちを押し殺して、笑顔で頷いた。「パパがあなたを嫌いなわけないでしょう？パパは美咲のことが大好きよ」

美咲は嬉しそうに笑った。

「私が治ったら、すくすく大きくなって！たくさんお金を稼ぐの！」

「お金があれば、パパは外で走り回らなくていいし、ママも毎食漬物とご飯だけじゃなくなるよ！」

私は彼女を抱きしめながら、止めどなく涙が流れた。

「あれ？ママ、どうして泣いてるの？」

「大丈夫よ、ママは嬉しくて泣いてるの。もうすぐ手術の時間だから、美咲は一人で入らないといけないけど、怖がらないでね」

「ふんふん！私、怖くないもん。もう大きな子だもん！」

私は彼女の頭を撫でて、手術室へ押して行った。

しかし入口に着くと、医師は妙な表情で私を脇に引っ張った。

「美咲ちゃんの手術はキャンセルされたんじゃないですか？」

「え？」私は叫び声を上げた。

「そんなはずありません！三年待ってやっとこのチャンスを掴んだんです。絶対に諦めるわけないです。何か間違いがあるんじゃ？」

医師は眉をひそめた。「お子さんのお父さんが、お金が足りないと言って、昨日直接来てキャンセルされましたよ」

藤原勇人？

確かにお金は集まっていたのに……

なぜ美咲の手術をキャンセルしたの？

どうして勝手に美咲の手術をキャンセルできるの！

私は震える手で携帯を取り出して彼に電話をかけたが、つながらなかった。

電話の呼び出し音が鳴る数十秒が、まるで一生のように感じられた……

私はそのまま手術室の前に立ち尽くし、頭がクラクラした。

しかしその瞬間、恐ろしい推測が頭をよぎった。

柳田千春の修復手術にも、大金が必要だった……

まさか彼は、この女のために……

美咲の命を救うお金を使ってしまったの？！