夏川和子が入ってきて、私を見た瞬間に表情が凍りついた。
今日、私が会社に現れるとは思っていなかったようだ。
まあ、そうだろう。普段なら私はどこに行くにも夏川和子に報告していたのだから。
今日は夏川和子と山本海斗を完全に不意打ちしてやったのだ!
夏川和子は一瞬信じられない様子を見せた後、不満げな表情で私を問い詰めた。
【田中辰也、今日会社に来るなんて私に言わなかったじゃない。どれだけ心配したと思う。】
私は嘲笑うように笑い声を上げた。
夏川和子が何か言おうとした時、その言葉を遮った。
【もういい、まずは山本海斗の件を片付けよう。】
【最初はあなたが彼を可哀想だと言って、デザイン主任の位置に就かせた。】
【メディア芸術大学のデザイン学科を卒業したと言うから、私もあなたの顔を立てたんだ。】
【でも今や会社を混乱に陥れ、新人をいじめ、職権を乱用し、他人の作品を盗用している。】
【警察に通報すれば、彼は数年も刑務所に入ることになるぞ!】
夏川和子は私の手を掴み、厳しい表情を浮かべた。
【そんなことはできないわ!】
私は夏川和子の白い手を見つめ、苦笑いを浮かべた。
そして表情を和らげ、真剣な眼差しで夏川和子を見た。
【じゃあ、どうすればいいんだ?】
山本海斗は横で不真面目な態度を取り、私が彼を追い出すことなど全く心配していない様子だった。
彼の目には、私は夏川和子の飼い犬に過ぎないのだから。
夏川和子が彼らのベッドの横に立てと言えば、私は文句も言わずに立つだろうと思っているのだ。
夏川和子の未練がましい様子を見て、私はさらに追い打ちをかけた。
【会社は今、上場の重要な時期だ。もし誰かが黒い噂を流せば、上場は失敗に終わる。】
それを聞いて、夏川和子は頷いた。
【じゃあ、とりあえず給与は保証したまま職務停止にしましょう。辰くん、あまり深く考えないで。】