第8章

中秋の日、私は玄関の前に立ち、中に入る勇気が出なかった。

故郷に近づくほど、心が怯えていく。

今世では二年間帰っていないだけだが、前世を合わせると、もう何十年も帰っていない。

【辰ちゃん、帰ってきたのね!】

五十歳近い母が扉を開け、私の方へ歩いてきた。

いつも美しく保っていた母の顔に、白髪が増えているのが見えた。

母は私の手を引いて中へ連れて行った。

父はソファーで新聞を読んでいたが、物音に反射的に顔を上げた。

【この不孝者め、よくも帰ってきたな!】

私は両親の前に進み出て、膝をついた。

【息子は不孝者でございます!】

母は慌てて、私を起こそうとした。

【何をしているの?佐藤さん、まだ怒ってるの?あなたこそ洗濯板の前で土下座しなさいよ!】

威厳を保とうとしていた父の表情が一変し、すぐに私を力強く引き起こした。

母は私と父を見て、にこにこしていた。

【そうそう、和子ちゃんは来なかったの?】

私の瞳が僅かに揺れた。

【彼女は少し用事があって、ここ数日は家で寝るだけの生活なんです。】

母は何かを察したようで、それ以上は何も言わなかった。

父の方は説教を始めた。

【会社をその女に任せたそうだな。会社は佐藤家のものだということを忘れるなよ。】

私は頷いた。

母は急いで話題を変えた。

【もういいでしょう。せっかく息子が帰ってきたのに、そんなこと言わないの。】

【後で私の親友一家が来るから、お父さんと息子は恥ずかしい真似しないでよ!】

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、玄関のチャイムが鳴った。

母は嬉しそうにドアを開けた。

【霊子、こんなに長い間連絡もよこさないなんて、随分冷たいわね。】

【これが瑶子ちゃんね、あっという間にこんなに大きくなって。】

玄関から母の親友一家が入ってきた。

私は笑顔で挨拶をした。

【山本おじさん、山本おばさん、それに……瑶子ちゃん。】

【久しぶりね、辰くん。】