第8章

中秋の日、私は玄関の前に立ち、中に入る勇気が出なかった。

故郷に近づくほど、心が怯えていく。

今世では二年間帰っていないだけだが、前世を合わせると、もう何十年も帰っていない。

【辰ちゃん、帰ってきたのね!】

五十歳近い母が扉を開け、私の方へ歩いてきた。

いつも美しく保っていた母の顔に、白髪が増えているのが見えた。

母は私の手を引いて中へ連れて行った。

父はソファーで新聞を読んでいたが、物音に反射的に顔を上げた。

【この不孝者め、よくも帰ってきたな!】

私は両親の前に進み出て、膝をついた。

【息子は不孝者でございます!】

母は慌てて、私を起こそうとした。

【何をしているの?佐藤さん、まだ怒ってるの?あなたこそ洗濯板の前で土下座しなさいよ!】

威厳を保とうとしていた父の表情が一変し、すぐに私を力強く引き起こした。