第5章

パチッと音がして、私はハイヒールをひねり、慌てて周りを見回した。廊下にはワインを運ぶウェイターしかおらず、藤原飛雄の姿は見えなかった。

追いかけてこない藤原九郎を一瞥し、私は気を取り直して、ここにいるべきではないと感じた。

携帯を見下ろしながら、さも気軽な様子で入力した。「私の家の前にいるの？」

わざと少し間を置いて、ベッドから窓までの距離を計算しながら、気まずそうに返信した。「見当たらないわ。どこにいるの？」

少し安心したものの、足早に歩き続けた。すると次の瞬間、藤原飛雄からビデオ通話の要請が来た。

その場に釘付けになり、髪の毛が逆立った！

彼は兄とは仲が悪く、私が藤原九郎と婚約していて会っていたことを知ったら、きっと別れ話を切り出すに違いない。

スマートフォンが熱いものでも触るかのように、素早く通話を切り、焦って返信した。「母が隣にいるから、今は都合が悪いの。」