藤原九郎のような忙しい人が、まさかバーに来ているなんて思いもしなかった。
親友が送った位置情報で、VIPルームで胸元を開けたシャツ姿の彼を見つけた。
私が来たのを見て、他の人たちは少し驚いて、部屋を間違えたのかと思ったようだ。
葉巻の煙が藤原九郎の指先で渦を巻き、緩んだネクタイをしながら、私に向かって微笑んだ。その圧迫感は言葉にできないほどだった。
「浅香ちゃん、こっちに来なさい」
明らかに彼は既に父から私のことを調べ上げていた。
周りの人々の驚いた視線の中、私は彼の隣に座り、安全な距離を保った。
心を惑わすコロンの香りと葉巻の匂いが鼻腔をくすぐり、彼の全身から漂う侵略的な雰囲気と相まって。
バッグをきつく握りしめ、覚悟を決めて目の前のシャンパンを手に取り、一気に飲み干した。