「文雄君はとてもいい子で、礼儀正しく、努力家でもあり、将来きっと大きな成功を収めるでしょう……」
学校の幹部の熱心な推薦の声が耳に届き、まるで私のバッグから銀行カードを取り出したがっているかのようだった。
しかしその声で我に返った。天の助けか、すべてが始まる前の時点に戻ることができたのだ。
名簿に記された目を刺すような三文字を見て、胃の中がひっくり返るような思いがした。
「昭子、大丈夫?具合が悪いなら、今日は帰って明日また来ようか?」
安田浩二が心配そうに私を見つめていた。
彼は私の夫で、前世では二人で苦労を共にし、とても仲が良かった。
両親が亡くなってからは、彼と愛が私にとって最も大切な人となった。
しかし前世では、娘の二人目の流産の知らせを運転中に受け取り、事故で亡くなってしまった。
私は必死に落ち着きを取り戻そうとした。
「大丈夫よ。この子はいい子ね。先生、連れてきていただけますか?」
10分もしないうちに、木村文雄が再び私の前に現れた。
記憶にあるスーツ姿で威厳のある彼とは大きく異なっていた。
今の木村文雄は、ただの黒くて痩せた貧しい少年だった。
制服は確かにきれいに洗濯されていたが、彼自身だけが知っていた。制服の下の服には、たくさんの継ぎ当てがあることを。
まるで彼自身のように、表面は無害に見えるが、内側は蛇のように冷酷だった。
「おじさん、おばさん、こんにちは」
私は彼をちらりと見ただけで、すぐに別の名前に目を移した。
「田中先生、この子も連れてきていただけますか」
田中先生は私が指さした名前を見て、少し困ったような表情を浮かべた。
「藤原さん、この子は……家族が進学を許可せず、中学卒業後すぐに結婚させられる予定なんです。他の子を見てみませんか……」
私の強い要望に、先生はついにその子を連れてきた。
藤原麗子、彼女はとても静かで、木のように無表情だった。
「おじさん、おばさん、こんにちは。藤原麗子です」
木村文雄は麗子が来るのを見て、さりげなく横に一歩移動した。
その目には一瞬、傲慢さと嫌悪感が浮かんだ。
前世のこの時期よりも、感情を隠すのが上手くなっていた。
「あなた、私は麗子を支援したいわ」
予想通り、勝利を確信していた木村文雄は耳を疑った。
「おばさん、誰を支援すると?」
「文雄君」田中先生は彼の失態を見て、すぐに遮った。「藤原さん、麗子は中学卒業後は進学できませんし、木村文雄の方が成績も優秀です。もう一度考え直してみませんか?」
「安田さん、どう思いますか?」
安田浩二は私に付き添って来ただけなので、当然私の意見に反対はしなかった。
「私と麗子は同じ藤原姓だから、これも縁ね。だから彼女を支援したいの」
このような身勝手な理由に、木村文雄は心の中で納得できなかったが、歯を食いしばって受け入れるしかなかった。
私は彼の袖の中で握りしめられた拳を見て、やっと少し気が晴れた。
これだけで怒るなんて?
まだ若くて感情を隠せないのね。
「でも文雄君の成績も確かにいいわ。だから、この二人とも支援することにするわ」
木村文雄は今、お金に困っているはずよ。結局、彼の父親は賭博中毒者で、義務教育でなければ、中学まで通えたかどうかも分からない。
彼は運がいいわね。前世では愛との一件で大騒ぎになったのに、彼には何の影響もなかった。
今回支援しなくても、きっと他の太っ腹な人が彼の学費を出してくれるでしょう。
だったら、計略通りに進めましょう。
それに、まだ復讐もしていないのに、そう簡単に逃がすわけにはいかないわ。
前世、私たちが木村文雄に出した支援金は少なくなかった。その金額があれば、もう一人の学生を支援しても十分よ。
学校を出ると、晴れ渡った空の下で灼熱の太陽を見上げた。
真夏の太陽は耐え難いものだったが、前世病床に伏せっていた私にとっては貴重なものだった。
「帰りましょう」
安田浩二が日傘を差してくれた。
「うん、愛ももう下校時間ね」