第1章

休暇明けの最初の出勤日、コーヒーを飲みすぎて、トイレに駆け込んだ私。

後ろから誰かが入ってきた!

「あっ……んっ!」

反応する間もなく、骨ばった大きな手が私の口を塞いだ!

背筋が凍る思いがした。痴漢に遭遇して、レイプされる!?

まさか、犯して殺されるの?

私はまだ若いのに!

体をよじらせ、必死に抵抗する準備をした。

そのとき、首筋で磁性のある甘い男性の声が響いた。

「お姉さん、『助けて』より『欲しい』って言う時の声の方が可愛いと思うんだけど」

その声とともに、熱い吐息が私の肌を撫でた。

しびれるような、くすぐったさ。

でも、私の心臓は更に激しく鼓動した!

やってしまった!

どうして私を見つけたの?

おずおずと振り返ると、案の定、あの輝く瞳が見えた。

見覚えのある、でも見知らぬ瞳。

私は固く口を閉ざした。確かに「助けて」なんて叫べない。

もちろん、厚かましく「欲しい」なんて言えるわけがない。

だって、間違いを犯したのは私なんだから!

今、被害者が私を追いかけてきたんだ!

話は一週間前に遡る。

私は高橋一郎と3年間付き合い、結婚の話も出ていた。

私は自立した女性で、生活の負担を全て男性に押し付けるつもりはなかった。

家庭のために一緒に頑張るつもりで、家を買うことにも。

だから頭金600万円のうち、200万円は私の分。それは私が何年も働いて貯めたお金。

高橋一郎は私を褒めて、こんな妻がいれば申し分ないと言った。

高橋母も笑顔で高橋家の先祖の徳だと!

こんな思いやりのある嫁を見つけられたのだと。

人は見かけによらないものね!

不動産権利証を見た日、頭から冷水を浴びせられたような気分だった!

そこには高橋一郎の名前しかなかった!

私は200万円も出したのに、この家は法的に私とは何の関係もない!

怒りながら問い詰めると、やっと高橋家の吐き気がする手口が分かった!

私の200万円は頭金には使わず、全部リフォーム代に回したというの。

だから高橋母は得意げに、家を買うお金は全て高橋家が出したんだから、佐藤恵の名前がないのは当然でしょう?って。

私は怒りのあまり、休暇を取って旅行に出かけた。

艶遇の街と呼ばれる京都へ。

気晴らしのつもりで、浮気なんて考えてもいなかったのに、思いがけず年下のイケメンを誘惑してしまった。