第5章

別荘に戻ると、私は自分の持ち物を少しだけ片付けました。

指輪を外してトイレに投げ込み、水を流しました。

スーツケースを引きずりながら別荘を出て、暗い夜の中へと大股で歩いていきました。

池田勇人の言う通り、両親を事故で亡くし、私は幼い頃から孤児院で育ちました。

親族もなく、仕事もなく、確かに行き場所がありませんでした。

バーの前を通りかかり、中に入って、自分を麻痺させようと酒を飲み続けました。

お酒が弱い私は、2本も飲まないうちに頭がクラクラしてきました。

携帯が激しく振動し、酔った目で開くと、不在着信とメッセージで画面が埋め尽くされていました。

電話の履歴を見ているうちに、また着信が入りました。

「熊谷美咲、このバカ女!どこに行ったの!何度も電話したのに、なんで出ないの?」親友の森川優の声は怒りの中に涙声が混じっていました。