場面は一時的に気まずくなり、空気が凍りついた。
三人とも何も言わず、関口美子は人混みをかき分けて、渡辺大輔の横に立った。
「あら、野村さん、お久しぶりですね!」
関口美子は率先して挨拶し、顔には少しの気まずさも見せず、先ほどとは別人のように礼儀正しい様子だった。
小林輝明は口角をゆがめた。彼は関口美子が人格分裂症なのではないかと疑っていたが、相手が認めないのなら、彼にもどうしようもなかった。
野村香織は優雅に微笑んだ。「お久しぶりです、関口さん!」
「個展を開かれたと聞いて、わざわざ応援に来させていただきました。」
「野村さん、お気遣いありがとうございます。今日は作品の一部だけの展示ですが、今後もっと多くの作品を展示する予定です。」と関口美子は笑顔で答えた。
「せっかく野村さんがお気に入りになられたので、この作品を差し上げましょう。」
言葉が終わらないうちに、関口美子は手に持っていた作品を差し出した。
野村香織は心の中で冷笑した。この女は本当に計算高い女だ。わざと自分が気に入ったと言って、まるで自分より上位にいるかのように振る舞っている。
作品の内容を一目見て、野村香織は眉をひそめ、関口美子が自分を侮辱していることを理解した。
作品名は「見捨てられて」。若い女性が涙を浮かべ、髪を乱し、数枚の枯れ葉が彼女の前で落ちていく様子が、寂しさと喪失感を一層際立たせていた。
「関口さんのご好意は心に留めておきますが、これはお断りさせていただきます。」と野村香織は冷静に言った。
内容はさておき、家に飾るには縁起が悪すぎる。
「まあ、野村さんはお気に召さないのか、それともこの作品の含意がお分かりにならないのでしょうか?」と関口美子は笑いながら尋ねた。
彼女は「計算高い女」という言葉を見事に体現していた。
野村香織は心の中で冷笑した。関口美子が意図的に自分を刺激していることはよく分かっていた。どんな含意も、この作品の名前が「見捨てられて」である以上、渡辺大輔に見捨てられた自分を暗示していることは明らかだった。
小林輝明の方を向いて、野村香織は尋ねた。「輝明、関口さんの写真作品はどう思う?」
「たいしたことないね!」小林輝明は遠慮なく言った。
野村香織は顔を赤らめた。小林輝明の言い方があまりにも直接的で、彼女自身も居心地が悪くなった。
「もう少し婉曲に言ってよ。関口さんに追い出されたくないわ。」と野村香織はゆっくりと言った。
怒りと悲しみで、関口美子は爆発しそうだった。小林輝明の評価を直接聞いて、彼女の表情は極限まで険しくなった。
「うん、こういうものは、やっぱりあなたの方が詳しいわね。」野村香織は頷いた。「あなたが好きじゃないって分かっていれば、連れてこなかったわ。帰りましょう。」
「いいよ、香織ちゃん。君がどこに行くにも、僕が付き添うよ。」小林輝明は同意した。
言い終わると、二人は立ち去った。その間、野村香織は渡辺大輔を一度も見ることなく、まるで空気のように扱った。
渡辺大輔は怒りを抑えながら、暗い眼差しで野村香織の動きを追った。小林輝明の「香織ちゃん」という呼び方が、彼の耳に不快に響いた。
あんなに親密な呼び方をする仲とは?
「おや、野村香織じゃないの?あなたもいらしたの?」二見碧子の声が響いた。「スターを見つけたからって、それで満足なの?」
「それに、若い人、あなたがスターだからって、控えめにした方がいいわよ。何も分からないくせに、人の作品を評価するなんて。」
本来は黙っているつもりだったが、「将来の義理の娘」である関口美子が傷つけられるのを見て、我慢できなくなった。
小林輝明と野村香織は足を止め、二見碧子の方を見た。
二見碧子と渡辺奈美子を見て、野村香織の心に苦い思いが込み上げてきた。
二年前、彼女が二十四歳の誕生日を迎えた時、小村明音が小さな誕生日パーティーを開いてくれた。そのパーティーで、彼女は渡辺大輔と渡辺家の人々に自分の家柄について打ち明けるつもりだった。
しかし、気まずい出来事が起きた。その夜、会社の人々以外、渡辺家の人は誰一人来なかった。普段付き合いのあった裕福な友人たちも含めて。
翌日になって分かったことだが、渡辺奈美子がグループを作り、その中で彼女についての「恥ずかしい話」を広め、彼女を完全に否定的に描いていた結果、グループのメンバー全員が彼女の誕生日パーティーに参加しないことを決めたのだった。
今日ここで二見碧子と渡辺奈美子を見て、彼女の心は刺すような痛みを感じた!
「あなた、私のアンチファンでしょう!」小林輝明は真剣な表情で言った。「あんなゴミみたいな作品を、よく良いと思えるね?」
「作品の内容はさておき、写真家としての技術も平凡だよ。間違いなければ、この作品は偶然のスナップショットだ。一見内容が豊かで意味深そうに見えるけど、魂を捉えきれていない。」
「作品名が『見捨てられて』だけど、作者は女性が見捨てられた一面しか表現していない。でも、女性が見捨てられたのか、それとも彼女が誰かを見捨てることができたのか、その涙は必ずしも苦痛の表れとは限らない、喜びかもしれない。」
「良い作品とは何か。それは見る人それぞれに異なる体験と感覚をもたらすものであって、全ての人が同じ感想を持つようなものではない。」
言い終わると、小林輝明はサングラスをかけ、得意げな笑みを浮かべた。