第51章 出て行け!

以前から彼は野村香織が並外れた美人だと気づいていた。しかし、彼女は渡辺家で3年間、毎日家事に追われ、渡辺家の家族の世話をし、文句も言わず真面目に働き、ほとんど化粧もせず、きれいな服も着ることはなかった。重要な場面に出席する時でさえ、控えめで上品な装いで、華やかさとは程遠く、むしろ質素に見えた。

今は昔と違い、彼女は独身に戻り、このように丁寧に装うと、まるで別人のように、人々の目を引くほどだった。

青木翔は野村香織を食い入るように見つめ、よだれを垂らしそうな様子だった。渡辺大輔が彼の方を向くと、その目は弾丸を放つかのようだった。

「あ...ハハ、その...お二人でお話しください。外は寒いので、私は車に戻ります」と青木翔は我に返って言った。

渡辺大輔の視線に背筋が凍る思いをした彼は、野村香織の美しさを眺めながら成り行きを見守りたかったが、命の方が大事だと判断し、車に戻って待つことにした。

邪魔な人物が去り、渡辺大輔は再び野村香織に目を向けた。ネオンの光のせいか、お酒のせいか、野村香織の可愛らしい顔は少し赤みを帯び、アーモンド形の瞳は冷ややかに彼を見つめていた。夜風が軽く吹き、赤いドレスの裾がわずかに揺れ、野村香織をより一層魅力的に見せていた。

渡辺大輔は喉を鳴らし、襟元を緩めた。数時間前に野村香織に強引にキスされて以来、彼の心は妙にざわついていた。

二人は長い間見つめ合い、時が止まったかのようだった。野村香織は眉を上げ、渡辺大輔が何か言うと思っていたが、しばらく待っても相手は口を開かなかった。そこで野村香織は尋ねた。「渡辺さん、今は私たち二人きりです。何か言いたいことがあるなら、どうぞ」

渡辺大輔は表情を冷たくし、かすれた声で言った。「出て行け!」

野村香織はクスッと笑った。「失礼します」

そう言って、落ち着いた冷淡な表情で渡辺大輔を一瞥し、車へと向かった。

野村香織の露わな背中を見つめながら、渡辺大輔の唇の端が痙攣し、心に刺すような痛みが広がった。野村香織は変わった。見知らぬ人のように変わってしまった。表面上は変わっていないように見えるが、その本質には疎遠さと無関心さが滲んでいた。

寒々しい夜の中、渡辺大輔は両手をポケットに入れて風に向かって立ち、その顔は氷のように冷たかった。野村香織はまっすぐに車に乗り込み、振り返ることもなかった。