彼女と比べて、渡辺大輔は一晩中寝返りを打って眠れなかった。彼はベッドの端に座り、充血した目で窓の外を見つめ、静かに朝日が昇るのを待っていた。眠りたくないわけではなく、目を閉じると、バーの前で野村香織にキスされた光景が自然と浮かんでくるからだった。
そして夜の闇の中で、あの比類なく艶やかな美しい顔と、この世のものとは思えない気品のある佇まいを思い出すたびに、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
渡辺大輔は自分がどうしてしまったのか分からなかった。野村香織と3年間結婚していたのに、どうして彼女がこんなにも美しく魅力的だと気付かなかったのだろう。印象では、この元妻は見た目は普通で、上品に言えばお嬢様、悪く言えば見た目が多少良い拝金主義者だった。しかし離婚してからというもの、野村香織は多くの噂を振りまくだけでなく、まるで第二次成長期のように、人として大きく変化していった。