第57章 あなたとは親しくない

彼らがこのように競り合えば、この「最愛」の価格が一千万を超えるのは時間の問題だった。しかし、誰が落札しても、双方にとって勝者はいないだろう。

しばらく待っても野村香織の反応がないため、司会者は規則通りカウントダウンを始めた。「七百万、一回目、七百万、二回目、七百万、三回目、成立……」

司会者が成立を宣言しようとした瞬間、野村香織が再びプレートを上げた。二階の個室で、渡辺大輔の表情は極めて暗かった。彼は彼女がまだ諦めていないことに驚いた。

青木翔が煽るように言った。「無理なら降りたらどう?一本のボロバイオリンが七百万なんて値しないよ。正直言って、下の女性には感心するね。八百万と言って即座にプレートを上げるなんて、本当に金に困ってないんだな!」

そう言いながら、彼はテーブルからマスクメロンを取って食べ始めた。このメロンの味は本当に最高だった!

渡辺大輔を知って以来、青木翔は彼が人と値段を競り合うのを初めて見た。しかも元妻と競り合うなんて、本当に面白い展開だった。

「八百万です。この美しい女性が八百万を提示しました。二階のお客様は更に価格を上げられますでしょうか?」と司会者は興奮気味に言った。

「おい、大輔、まさか本当に諦めるつもりじゃないだろう?それはお前らしくないぞ?さっきまでマンロングループの会長にこのバイオリンを贈ると言ってたじゃないか。もうすぐカウントダウンが始まるぞ、早くプレートを上げろよ。」渡辺大輔が動きを見せないのを見て、青木翔は急いで促した。

渡辺大輔は彼を鋭く睨みつけ、再びプレートを上げた。「九百万!」

会場は騒然となり、司会者は興奮のあまりその場で飛び上がりそうになった。後方のスタッフたちも歓声を上げた。これは今年の競売会で最高額の入札となった。

「最愛」の開始価格は三百万で、予想落札価格は四百万だった。しかし、わずか数分で九百万という高値がつき、開始価格の三倍にもなった。競売会にとっては、まさに大当たりだった!

「すごい!さすがVIPのお客様です。出す金額が違います。二階のお客様が九百万を提示しました。」と司会者は上機嫌で言った。

下階では、野村香織がプレートを見つめ、何度も半分上げかけては下ろした。周りの人々は彼女の手元のプレートを見つめ、緊張した面持ちだった。