第71章 3分をやる

渡辺大輔は胸が痛くなり、続けて言った。「でも、あなたの大学の卒業記念写真が、持って行き忘れたみたいですが……」

野村香織は眉をひそめ、渡辺大輔が話題を作っているように感じた。「私はきちんと片付けたので、持って行ったはずです。」

「それなら、家に帰って卒業写真を持って行ったかどうか確認してみることをお勧めします。」そう言って、渡辺大輔はポケットに両手を入れて立ち去り、野村香織は困惑した表情で彼の背中を見つめていた。今日の彼は少し変だった。

しかし、男の言葉は効果があり、野村香織は家に帰るとすぐに卒業記念写真を探し始めた。結果として、本当に卒業記念写真が見つからなかった。渡辺大輔に言われなければ、気づかなかったかもしれない。

……

渡辺邸。

渡辺大輔と離婚して以来、野村香織は初めて戻ってきた。豪華絢爛な渡辺家を見て、彼女の心は非常に落ち着いていた。赤いポルシェ718は邸宅の入り口に直接停車し、クラクションが軽く数回鳴らされた。

すぐに邸宅の大門が開き、50歳くらいの中年男性が出てきた。彼は渡辺永吉といい、渡辺家の執事だった。車から降りてきた野村香織を見て、彼は表情を固めて言った。「野村さん？！」

野村香織は頷いた。「門を開けてください、お手数ですが。」

渡辺永吉は眉をひそめ、野村香織が突然戻ってきた理由が分からなかった。以前から彼は野村香織が気に入らなかったが、今や彼女は渡辺家の嫁ではなくなっていた。

「申し訳ありませんが、野村さん、渡辺家にはルールがございまして、部外者は立ち入り禁止となっております。このことはご存知のはずです。また、この時間、渡辺夫人と奈美子様はもう就寝されております。お引き取りください。」渡辺永吉は作り笑いを浮かべながら言った。

断られることを予想していたかのように、野村香織は冷たく言った。「そうですか、では警察に通報させていただきます。」

言葉が終わらないうちに、彼女は携帯電話を取り出して操作し始めた。渡辺永吉は息を呑み、野村香織が脅しているわけではないと分かると、急いで制止した。「少々お待ちください、お伝えして参ります。」