「はい、三日間付き合ってあげたわ。これ、あなたの彼氏が私に頼んで渡してって言ってたの」野村香織は笑いながら言って、バッグを小村明音に手渡した。
撮影現場で三日間過ごしたことは、自分に三日間の休暇を与えたようなものだった。今朝も錦都に行ってきた。旭テクノロジー株式会社がそこで上場することになり、彼女と柴田貴史が最大の古株主だったため、会社の幹部たちの面子を立てるために顔を出す必要があった。
上場セレモニーが終わった後、退屈になったので柴田貴史に応酬を任せ、彼女は柴田貴史から頼まれたルイ・ヴィトンのバッグを小村明音に届けることにした。
小村明音は手にしたバッグを嬉しそうに見つめ、小さな顔に幸せそうな赤みが浮かんだ。野村香織も彼女のために喜んだ。柴田貴史は本当に彼女に良くしてくれている。
帰ろうとする野村香織を見て、小村明音は見送りながら言った。「香織ちゃん、私と一緒にいないってことは、また若い俳優とデートでも?」
野村香織は彼女の脇腹をつねり、小村明音は驚いて逃げた。野村香織は呆れて言った。「小村明音、暇があったら台本でも読みなさいよ。そんな脳みそ溶かすような甘いラブ小説ばかり読んでないで。あなたの頭の中は何でいつもそんなごちゃごちゃなの」
「ふん、何も分かってないわ。台本なんて小説ほど面白くないもの。もういいわ、見送らないから。次のシーンの準備しないと」小村明音は口をとがらせながら言って、中へ戻っていった。
野村香織はため息をつき、この天然な小村明音にはどうしようもないと思った。数分後、彼女は車を運転して撮影所を離れ、市街地へと向かった。
……
三井グランドホテル。
天満玲子からの招待を受け、野村香織は特別に駆けつけて彼女と夕食を共にすることにした。数日前に全ての引継ぎ手続きを済ませ、各種の支払いも清算が完了した。当初の計画通り、天満玲子は海外で世界一周旅行をする予定だった。
天満玲子の話によると、今回の出国後、特別な事情がない限り、もう二度と戻ってこないかもしれないとのことだった。だから出発前に野村香織と食事をしたいと言ってきたのだ。公私ともに、このビジネス界の先輩に対して、彼女は必ず出席しなければならなかった。天満玲子の送別会としても。