岡山洋子はもう息をするのも怖くなっていた。渡辺大輔の気持ちは理解できた。堂々たる嘉星グループの社長が、一日のうちに二人の女性に面子を潰されたのだから、気分が悪いなんてものではなかった。
渡辺大輔のこめかみが激しく脈打ち、歯ぎしりが響いていた。怒鳴りたい気持ちを抑えられなかったが、誰に向かって怒ればいいのかわからなかった。ビジネスは双方の合意があってこそのもの、取引が成立しなくても仁義は保たれる。天満玲子に対して何もできなかった。
「調べろ。天満玲子の株式を手に入れたのは一体誰なのか!」渡辺大輔は命令した。
彼は知りたかった。天満玲子を先に説得したこの人物は一体何者なのか。おかげで九百万円でピアノを買わされ、ただの損な買い物をしただけになってしまった。まさに二重の損失だった。