第62章 申し訳ありません、受け取りを拒否します!

野村香織は会計を済ませ、緑茶室を出る前に携帯が鳴り始めた。取り出してみると、渡辺大輔からの着信だった。眉を上げ、彼女は即座に切った。

緑茶室を出て、彼女は直接車で別荘に向かった。今日の外出は大きな収穫があり、天から数十億円が降ってきたような感覚だった。

道中、スタンドに置いた携帯は鳴り続けていたが、野村香織には出る気が全くなく、電話が自動的に切れるまでそのままにしていた。

野村香織が車を停め、車庫から出てきた時、岡山洋子が笑顔で彼女を見ているのに気づいた。「渡辺社長は一体何がしたいの?まさかここまで追いかけてくるなんて。」

「野村さん、誤解しないでください。渡辺社長に他意はありません。ただプレゼントをお渡ししたいだけなんです。」岡山洋子は笑いながら言った。

野村香織は困惑した表情で「私にプレゼント?」

岡山洋子は頷き、別荘の入り口の方へ向かって歩き始めた。野村香織も躊躇せずに後を追った。渡辺大輔が何を企んでいるのか見てみたかった。

「バイオリン?」ボディーガードが抱えているものを見て、野村香織は驚いて言った。

岡山洋子は笑って説明した。「そうです。これには素敵な名前があります。スカイスピリットと言います。渡辺社長がコレクターから高額で購入して、あなたに贈るために用意したものです。どうぞお受け取りください。」

スカイスピリットの古風で神秘的な模様と、星座に沿って埋め込まれた宝石を見て、野村香織は心の中で戸惑った。このバイオリンの真贋は気にしていなかったが、ただ渡辺大輔が何をしようとしているのか理解できなかった。

「野村さん、受け取ってください。そうすれば私たちも報告できます。このバイオリンは、オークションの『最愛』よりも価値が高いんです。」岡山洋子は急かした。

「申し訳ありませんが、お断りします!」野村香織は冷たく言い返し、すぐに別荘の中に入ってしまい、岡山洋子に話す機会を与えなかった。

渡辺大輔の意図は分からなかったが、昨夜オークション会場の入り口での男の言葉を思い出した。プレゼントを贈るなんて、明らかに離婚の慰謝料に過ぎなかった。