第106章 羨ましい限り

三人は幼なじみで、柴田貴史がどんな人柄なのか、彼女はよく分かっていた。小村明音が彼と結ばれることで、きっと幸せな生活を送れるだろうと、心から嬉しく思っていた。

もちろん、柴田貴史のことをよく知っているからこそ、彼が理由もなく自分に電話をかけてくることはないと分かっていた。相談に乗って欲しいというのは、きっと何か困ったことがあるに違いない。

電話の向こうで、しばらく沈黙が続いた後、柴田貴史は口を開いた。「結婚には、家と大きなダイヤの指輪が必要なんだ。」

「ふ~ん」野村香織は長く声を引き伸ばした。

家という言葉を聞いて、以前小村明音が打ち明けてくれた話を思い出した。明音はここ2年間、必死に撮影の仕事をこなして貯金をしていた。それは二人の新居を買うため、柴田貴史にサプライズを贈りたいと思っていたからだ。

「今日は19日だから、ちょうど1週間後ね。いつにする?」野村香織は言った。

柴田貴史は逆に尋ねた。「君の方が忙しいだろう。君の都合に合わせるよ。」

「あなたたちの結婚が一番大事だから、私はいつでも仕事を後回しにできるわ。だからあなたたちの予定を優先しましょう。」野村香織は笑いながら言った。

柴田貴史は少し考えてから言った。「じゃあ、明後日は?」

「問題ないわ。」野村香織は考えることもなく、すぐに頷いた。

電話を切ると、野村香織は自分の長い十本の指を見つめた。9ヶ月前まで、右手の薬指には輝くダイヤの指輪があり、彼女の結婚生活を象徴していた。しかし今では何もない。3年間つけていた跡さえも消えてしまい、まるで指輪をつけたことなどなかったかのようだった。

そう考えると、窓の外を見つめずにはいられなかった。小村明音のことを心から祝福する一方で、自分のことを思うと溜息が出た。自分にはこんな羨ましい恋愛をする運命はなく、愛する人と結婚の殿堂に入ることもできなかった。

2日間続けて、野村香織は規則正しく忙しく過ごしていた。すべてのスケジュールと時間は斎藤雪子によってびっしりと組まれていた。唯一の楽しみは、柴田貴史と小村明音のプロポーズの件だった。

あっという間に、柴田貴史との約束の日が近づいてきた。新居と結婚指輪選びを手伝うため、野村香織は斎藤雪子に会議を1日前倒しにしてもらった。