第107章 私たちは友達だけ

「どの物件がお気に入り?」柴田貴史が尋ねた。

野村香織は浴室をもう一度見回してから、「さっき見た5つの物件の中では、フォーチュン・インターナショナルの物件が一番良いと思うけど、あなたはどう?」と言った。

「うん、僕たちの考えは同じだね。僕もフォーチュン・インターナショナルの物件が一番いいと思う。採光も間取りも、その他の設備も、間違いなく最高だよ。明音も気に入ると思う」柴田貴史は頷きながら言った。

……

フォーチュン・インターナショナルの販売センター。

柴田貴史は十分な準備をしていた。不動産登記証明書には小村明音の名前だけを記載することにしていた。共用部分を含めると総面積は400平方メートル以上で、総額は4,700万元。その場でカード決済で全額支払った。

営業の女性は喜びのあまり飛び上がりそうになり、野村香織の美しさを何度も褒め称え、こんなにお金を使ってくれる素晴らしい夫を見つけたと言って、きっと彼女のことをとても愛しているに違いないと言った。

野村香織は軽く笑って、「誤解よ。私たちは友達で、不動産登記証明書に載る人は私じゃないの」と言った。

営業の女性は表情を硬くし、すぐに二人に謝罪した。しかし、二人を見る目つきには奇妙なものがあった。こんな重要な物件購入なのに、自分の彼女を連れてこないなんて、誤解されても当然だと思った。

柴田貴史が支払いと手続きをしている間、野村香織は一人で休憩スペースに座っていた。一日中歩き回って、足がもう限界だった。運動不足を実感した。

そのとき、男女一組が入ってきた。野村香織は一瞥して、青木翔だと気づいた。ただし、彼の隣にいる女性は知らなかった。おそらく青木翔の新しい彼女だろう。

ソファに座っている野村香織を見て、青木翔も驚いた。ここで彼女に会うとは夢にも思わなかった。まさに因縁とはこのことだ。

彼は従妹の中野美也子に無理やり物件を見に連れてこられたのだった。先ほど物件を一つ見て、従妹が気に入ったので、支払いと契約のために来たところだった。野村香織が知らない振りをしているのを見て、青木翔も賢明にも挨拶を控えた。

中野美也子と休憩スペースに座ると、すぐ隣にいた二人の従業員が、向かいのテーブルにいる男性を褒めちぎっているのが聞こえてきた。