渡辺奈美子は青い髪の女の子と一緒にエレベーターを出て、野村香織を見かけると表情が凍りついた。前回の裁判以来、渡辺奈美子はしばらく野村香織に嫌がらせをする勇気がなくなっていた。以前なら、お嬢様然とした態度で野村香織に言葉で攻撃を仕掛けていただろう。
風水は巡るもので、今の渡辺奈美子は野村香織を見かけると避けて通りたいほどだった。彼女は認めざるを得なかった。野村香織は法的手段で彼女に非常に生々しい教訓を与え、野村香織の手段がいかに厳しいものかを思い知らされたのだ。
渡辺奈美子が友達を引っ張って恐る恐る立ち去る様子を見て、野村香織は口角を少し上げた。人というのはそういうものだ。優しく接すると付け上がり、厳しく懲らしめてはじめて自分の立場を知るのだ。
渡辺奈美子が問題を起こさないなら、野村香織も関わる気はなかった。バッグを持ってそのままエレベーターに乗り込んだ。世界は本当に狭いと感じた。どこに行っても「知り合い」に出会うものだ。
……
さらに三日が過ぎ、野村香織は相変わらず忙しく過ごしていた。一方、街の反対側では、岡山美央子が得意げに歩いていた。まるで六親眼中にないかのような歩き方で、歩くだけで風を起こしているかのようだった。
川井家を後ろ盾に、岡山美央子は今や芸能界で順風満帆な生活を送り、手中の資源は星の数ほどあった。今日の地位を得られたのは、全て清正エンタメの社長である川井星秋のおかげだった。
岡山美央子は明確に考えていた。これからも人気を維持したければ、川井星秋の力にしっかりとすがらなければならない。さもなければ、川井家は彼女の地位を簡単に他の誰かに取って代わらせることができるのだから。
一昨日のパーティーで、レッドカーペットを歩いているときに小村明音と出くわした。背筋がより一層伸びる思いがした。川井家の後押しがあれば、今や野村香織さえも眼中にない。まして小村明音なんて取るに足らない。
小村明音と「にらみ合い」をしているその時、マネージャーの森村蘭子が息を切らして走ってきた。なぜか、森村蘭子の緊張した表情を見ていると、胸に不吉な予感が湧き上がってきた。
「蘭子さん、どうしたの?何かあったの?」岡山美央子は尋ねた。