二人の女性が立ち上がると、傍らの青木翔も立ち上がった。「僕も一緒に行きたいな。何度も来たことはあるけど、ちゃんと見て回ったことがないんだ」
彼も行くと聞いて、天満奈津子は不機嫌な顔で言った。「お兄さん、さっき食事の時に会社の用事があって戻らないといけないって言ってたじゃない?今は大丈夫なの?」
青木翔は首を傾げて「祝日だから、用事は明日でいいよ」
天満奈津子「……」
野村香織は微笑みながら青木翔を見た。青木翔は慌てて顔をそらし、彼女の視線を見なかったふりをした。彼は野村香織の目を見る勇気がなかった。その目には恋の色が漂っていて、見つめられると恋の渦に巻き込まれそうだった。
仕方なく、天満奈津子は二人を連れて敷地内を案内することにした。歩きながら野村香織をどうやって懲らしめようか考えていたが、しばらく考えても良い考えは浮かばなかった。最後に一行は敷地内の収蔵室へ向かった。そこには国内外の有名な書画や、特別な骨董品が数多く展示されていた。
天満奈津子は自家のコレクションを紹介しながら、得意げに野村香織を横目で見ていた。しかし野村香織は終始落ち着いた表情を保ち、少しも卑屈な様子を見せなかった。
天満奈津子は胸に怒りを抱えたまま、青木翔が側にいるため野村香織に何もできず、ただ強い口調で言った。「そうそう、忘れてた。香織さんは以前渡辺家の奥様だったから、こういうコレクションはたくさん見てきたでしょうね」
野村香織は平然と答えた。「私はこういうものには興味がないので、あまり気にしたことがないし、本物か偽物かも分かりません」
この言葉を言う時、彼女は意図的に「本物」「偽物」という言葉を強調した。少し頭のある人なら、その言葉に含まれた意味を理解できただろう。
天満奈津子は怒って言った。「あなたは本当に分からないんでしょうね。ここにある物は一つ一つ最低でも10万円以上の価値があるんです。私たち天満家の方々は偽物で見栄を張るようなことはしません」
野村香織は口元を歪めて「あなたの家の物が偽物だなんて私は言っていませんよ。それはあなたが言ったことです」
その軽い一言で、天満奈津子は爆発しそうになった。野村香織の言い方は、まるで彼らの家のコレクションが全て偽物だと決めつけているようだった。