彼は野村香織とはあまり接触がなく、というよりも数回しか会ったことがないのだが、彼女のことはよく理解していた。以前は渡辺大輔の前では唯々諾々として、へりくだっていた女性が、今では全く異なる人物になっていることを、彼は十分承知していた。彼女の強気な態度は少しも意外ではなかった。
……
野村香織が電話を切ったばかりのところに、小村明音から電話がかかってきた。電話に出るとすぐに、明音は不満げに言った。「さっき誰と話してたの?もう2回もかけたのに、ずっと話し中だったわよ。」
野村香織は笑って答えた。「ああ、大したことじゃないわ。」
小村明音は執拗に聞き返した。「だめよ、はっきり言わなきゃ。一体誰からの電話がそんなに重要で、私の電話も出られないほどだったの?」
野村香織は仕方なく答えた。「天満奈津子の実の父親、天満春生の秘書からの電話よ。これで満足?」
小村明音は「???」
転心瓶の件については彼女も知っていたが、天満春生の秘書がここまで手を回して野村香織を見つけ出すとは思わなかった。そこで推測して言った。「どういう状況なの?まさか彼らが瓶の鑑定をやり直したの?」
その推測が的中したのを見て、野村香織は頷いた。「へぇ、最近いいものでも食べてるの?頭が良くなったじゃない。その通りよ、2時間前に彼らは瓶の鑑定をやり直したわ。」
小村明音は皮肉っぽく言った。「ふん、とうとう我慢できなくなったのね?鑑定なんかしなければいいのに、見事に面目を失ったわね。」
野村香織はこの話題を続けたくなかったので、話を変えた。「彼らのことはさておき、あなたの方は?電話をかけてきた用件は?」
小村明音は我に返り、急いで言った。「あ、そうだった!天満家の方々のことばかり考えてて、大事なことを忘れるところだったわ。あなたに新しいドレスを買ったの。忘年会で着るためよ。サイズが合わなかったら教えてね、直してもらうから。」
その話を聞いて、野村香織は肩をすくめた。「そこまでする必要ある?ただの会社の忘年会でしょう?そんなに大げさにしなくても。」