第208章 野村香織はいい人だと思う

川井遥香は面白そうに言った。「送り返してあげようか？」

渡辺大輔は彼を一瞥して言った。「うるさい！」

川井遥香は冗談めかして言った。「さっきも言ったじゃない、私が迎えに来たんだから、最後まで送り届けるのが当然でしょう。それに、車で来てないって言ってたじゃない？」

渡辺大輔は彼を無視して、川井家の小さな駐車場の方へ歩き出した。彼はあまり来ないが、川井遥香は常に彼のために駐車スペースを確保していた。

彼が車で帰ろうとするのを見て、川井遥香は急いで声をかけた。「大輔、ちょっと待って、話があるんだ。」

渡辺大輔は眉をひそめ、仕方なく車を止め、窓越しにイライラした表情で川井遥香を見た。「用件は手短に頼む。」

野村香織に再び拒否されたため、彼の機嫌は非常に悪く、今は誰とも話したくなかったし、他人の無駄話も聞きたくなかった。立ち止まったのは、すでに川井遥香への配慮としては十分だった。

川井遥香は深く息を吸い、真剣な表情で言った。「大輔、正直に答えてくれ。後悔して、もう一度野村香織を追いかけようとしているのか？」

その質問を聞いて、渡辺大輔は眉をひそめ、見下すように言った。「何か問題でもあるのか？」

川井遥香は肩をすくめた。「私には何の問題もないよ。ただ、妹が野村香織のことをとても気に入っていて、最近の様子を見ていると、野村香織はなかなかいい人だと思うんだ。」

それ以上は言わなかったが、誰でも理解できる含みがあった。渡辺大輔の耳には、川井遥香が野村香織に好意を持ち、彼女を追いかけようとしているという意味に聞こえた。

親友が自分の元妻に心を寄せている？渡辺大輔の表情が凍りつき、目を細めて川井遥香を見つめた。「変な考えを持つなよ。そうしたら友情も終わりだ。」

そう言うと、アクセルを踏み込み、川井邸から車を飛ばして出て行き、黒いタイヤの跡を残した。

渡辺大輔の怒りの表情を見て、川井遥香は怖がるどころか、口角を上げて言った。「ふん、友情が終わるなら終わればいい。私を食い殺すわけじゃないだろう？」

……

花浜ヴィラ。

夜の6時ちょうど、野村香織が帰宅すると、メイドに湯を沸かすよう指示し、川井若菜からもらった花束をリビングの花瓶に生けた。優しい花の香りを嗅ぎながら、野村香織は心が癒された。