「ああ、聞くのを忘れるところだった。山本春雨がこんなに積極的に私を集まりに誘ってくれたけど、どんなサプライズを用意してくれたのかしら?」野村香織はオレンジジュースを飲みながら言った。
その言葉を聞いて、夏川静香は少し戸惑い、野村香織を上から下まで見つめた。彼女が賢くなったように感じ、まだ仕掛けていない芝居を既に察知されているようだった。
しかし、そんなことを認めるわけにはいかない。夏川静香は首を振って言った。「何を言ってるの?どんなサプライズよ?」
野村香織は冷笑し、自分のバッグを開け、中から透明な小瓶を取り出した。瓶の中には数個のカラフルなラグビーボール型の錠剤が入っていた。
「夏川静香、見覚えない?」野村香織は小瓶を夏川静香の目の前で振った。
彼女の手にある小瓶を見て、夏川静香の顔色が一瞬暗くなり、何も分からないふりをして言った。「ちょっと一人で座っていて。他のクラスメートと話があるから。」
そう言うと、彼女は個室を出て行った。一分も経たないうちに、山本春雨と他の二人の女子も前後して個室を出た。トイレに行くという口実だったが、野村香織には分かっていた。彼女たちは夏川静香に呼び出されたのだ。
昨夜の話し合いで、野村香織に強い薬を盛ることに決めていた。先ほどの小瓶の中の錠剤は、実は彼女たちが事前にここの店員を買収し、店員が野村香織に給仕する際にこっそり薬を盛るつもりだった。
驚いたことに、店員は薬を盛るどころか、逆に錠剤が野村香織の手に渡ってしまった。夏川静香たちは店員を罵りながら、心の中で恐れ始めていた。
野村香織は豆腐のように柔らかい性格ではない。誰でも好き勝手に手を出せる相手ではない。今、彼女たちが薬を盛ろうとしていたことが分かった以上、彼女の性格からして、今夜の集まりで夏川静香たちを簡単には済ませないだろう。
夏川静香の後ろ姿を見ながら、野村香織は眉をひそめ、その後小瓶をゴミ箱に投げ入れた。そのとき、数学の学級委員が彼女に近づいてきた。
数学の学級委員は分厚い近視メガネをかけ、痩せて背が高く、物静かな様子で、書生のような雰囲気が強かった。野村香織は意外に思った。間違いでなければ、以前の数学の学級委員はとても太っていたのに、今はこんなに清秀になっていた。
数学の学級委員は笑って言った。「野村香織、僕のこと覚えてる?」