川井星秋は一言も言わず、振り返りもせずに、服を着てバッグを手に取ると個室を出て行った。今夜の食事は不愉快で、交渉はさらに彼を怒らせた。今は一言も余計なことを言いたくなかった。
鈴木秘書はまず野村香織たちに申し訳なさそうに笑いかけ、その後急いで川井星秋の側に駆け寄り、諭すように言った。「社長、今は意地を張る時ではありません。冷静に分析してみれば、先ほどの野村さんの言葉は間違っていません。我が社は今、負債だけで5億円もあります。もし10日や半月引き延ばせば、5億円が7億円、8億円になるかもしれません。しかも負債が大きくなればなるほど、我が社を引き受けてくれる人はいなくなります。最後に負債に押しつぶされたら、12億円も手に入らないし、この件が川井社長の耳に入ることになります。そうなったらどうなるか、考えてみてください。」
川井星秋は怒りで肺が爆発しそうになり、顔を曇らせて言った。「私が売りたくないと言っているのか?光文堂に誠意がないんだ。さっき聞いただろう、12億円で茂森を買おうとするなんて、あまりにも人をバカにしている!」
鈴木秘書は頷いた。12億円は確かに安すぎる。しかし今の会社の状況はこうなのだ。一日遅れるごとに多額の損失が出る。このまま意地を張り続けるのは、もはや意地の問題ではなく、単に耐えられないということだった。
実際、川井星秋と川井輝兄弟は個人的には裕福で、もし二人がそれぞれ10億円を茂森に投資すれば、茂森を立て直すことはできるだろう。しかし、その後どれだけ持ちこたえられるかは分からない。明らかに兄弟は茂森にこれ以上お金を使いたくないようで、そうでなければ交渉などしに来なかっただろう。
そう考えて、鈴木秘書は尋ねた。「社長、もしかして川井副社長と一緒にその5億円の債務を自己負担するおつもりですか?」
その言葉を聞いて、川井星秋の足が止まった。その言葉は鋼針のように彼の心を刺し、痛みを感じた。
茂森の現状は、まるでお金を燃やす穴のようで、いくら投入しても足りない。5億円は彼と川井輝にとって大したことではないが、5億円の後には、おそらく10億円、30億円、50億円と必要になるかもしれない。これは兄弟でも耐えられる額ではなかった。