第343章 しつこい男

渡辺大輔はブローチを拾い上げた。今日、野村香織は白いタートルネックのセーターを着ていた。セーター全体がシンプルだったので、野村香織はこのブローチで装飾していた。渡辺大輔はティッシュでブローチを包み、慎重にポケットにしまった。

……

花浜ヴィラ。

野村香織がクローゼットでセーターを脱いだとき、付けていたブローチがなくなっていることに気づいた。このプラチナのブローチは高価なものではなかったが、小村明音が直接デザインして作らせてくれたプレゼントだった。ブローチ全体のデザインは「XYY」という三つの大きな文字で、香織ちゃんという意味だった。

野村香織は眉をひそめ、何度もブローチがなくなったことを確認すると、眉間にしわを寄せた。ブローチは小さく、どこかの角に落ちていたら見つけるのは難しい。今日は長時間外出していて、庭園、ヴィラ、車の中、中庭など、たくさんの場所に行っていた。どこで落としたのかわからず、それを見つけることは大海から針を探すようなものだった。

「まあいいか、なくなったものは仕方ない」最終的に野村香織はブローチを探すことを諦めた。

……

翌日午前10時、野村香織は会議室から出てきて、斎藤雪子を見て尋ねた。「エフジェーテクノロジーの件はどうなった?」

斎藤雪子は資料を開きながら、野村香織と一緒に歩きながら報告した。「現在の状況はこのようになっています、野村社長」

野村香織は頷いた。「わかりました。竹島晴翔とアポイントを取ってください。時間は彼の都合に合わせて」

……

車のドアを開けようとした時、野村香織は誰かが自分の名前を呼ぶのを聞いた。振り向くと、赤いフェラーリの横に白いスーツを着た男性が立っており、微笑みながら彼女を見ていた。

野村香織は眉を上げた。「夏川若旦那?」

一度しか会っていないにもかかわらず、野村香織の記憶力は非常に良かったので、夏川健志の「輝かしい姿」を覚えていた。ただ、彼がここに来た理由がわからなかった。

夏川健志は笑って言った。「私の招待を断ったと聞きましたが、そんなにも私の顔を立てたくないのですか?」

皮肉めいた言葉を聞いても、野村香織は全く驚かなかった。これは夏川健志に対する彼女の印象と一致していた。渡辺大輔が「冷たい」と表現するなら、この男性は「傲慢」と表現できる。全身から尊大な雰囲気を漂わせていた。