第358章 厚かましすぎる

居心地の悪い空気が部屋中に漂っていた。青木翔は居心地の悪さで病みそうになり、思わず口を開いた。「野村さん、確かポーカーが得意だったよね?」

この言葉を聞いて、小村明音が真っ先に手を挙げた。「マジで!?それも知ってるの?もしかして、あなたも香織ちゃんに負けたことある?彼女は写真記憶力があって、一目で十行も読めるんだよ。子供の頃からポーカーも麻雀も、彼女が負けるのを見たことがほとんどないわ」

青木翔は驚いたふりをして言った。「へぇ、そうなんだ。俺の友達にも似たような人がいて、カードゲームなら一度も負けたことがないんだ」

その言葉を聞いて、傍らにいた渡辺大輔は眉を上げ、青木翔が言及した負け知らずの友達は自分のことを指しているような気がして、冷たい声で言った。「おい、俺に名前がないとでも思ってるのか?それとも俺の名前を知らないのか?俺の名前を言うのが恥ずかしいのか?」

青木翔は野村香織の方をちらりと見て言った。「ふん、お前なんか分かってない。彼女はお前のことうんざりしてるんだ。俺が口にお前の名前を出したら、俺まで嫌われちゃうよ」

渡辺大輔は野村香織の方に目を向けた。彼女は耳を立てて聞き入る様子で、目には微かな笑みを浮かべながら、ゆっくりと焼き肉を返していた。

渡辺大輔は青木翔の隣に座り、肉の皿を野村香織に差し出して言った。「これも焼いてもらえませんか?」

野村香織の卓越した賭け事の腕前について話していた青木翔と小村明音は、渡辺大輔のこの言葉を聞いて振り向いた。小村明音は眉をひそめて言った。「渡辺社長、まさか。外でも社長気取り?焼いた肉を口まで運んでほしいとでも?」

渡辺大輔は小村明音を一瞥して、正直に言った。「焼き肉の焼き方が分からないんです」

この言葉を聞いて、野村香織以外の全員が呆然とした。渡辺大輔の表情が真摯で誠実でなければ、冗談を言っているのかと疑ったほどだ。

野村香織は眉をひそめた。「あなたができないなら、親友ならできるでしょう。彼に焼いてもらえば」

彼女は渡辺大輔がこういうことができないのを知っていたが、それでも断った。小村明音は怒りながら頷き、野村香織の言葉に大いに賛同した。渡辺大輔が野村香織に肉を焼かせようとするのは、あまりにも厚かましく、恥知らずだと感じた。