渡辺大輔はもう一杯の水を注いで飲み始めた。温かい白湯が喉の渇きを和らげた。野村香織が彼に対して不機嫌な表情を見せているのを見て、彼は口を開いた。「わざとじゃないんだ。」
野村香織は話題を変え、この話を続けたくなかった。「一階の右側に客間があるわ。誰も使ったことがないけど、男物の服や寝巻きはないから、今夜は我慢してね。明日の朝、青木翔が迎えに来てくれるって約束したから。それと、今熱があるから、シャワーは控えめにした方がいいわ。悪化するから。」
そう言って、彼女が部屋に戻ろうとした時、手首が再び渡辺大輔に掴まれた。男の手はまだ熱く、思わず手を引っ込めたくなった。
野村香織は渡辺大輔の顔を見る勇気が出なかった。男の手の温もりで、心臓が再び早鐘を打ち始めた。今は夜も更けて、男女二人きりの空間で、もし渡辺大輔が何かしてきたら、どうすればいいのか分からなかった。
渡辺大輔は掠れた声で「野村香織」と呼んだ。
野村香織は声に反応して振り向き、眉を上げて彼を見つめた。何も言わずにただ見つめ返すだけだった。渡辺大輔は彼女の視線に少し落ち着かない様子を見せたが、それでも話し始めた。「君の中で、僕は卑劣な人間だと思われているんだろう。実際、そう考えるのは間違っていない。あのゴルフ場での出来事以来、僕は君を避け続けてきた。君の前に現れる勇気がなかった。でも会いたかった。でも君が会いたくないだろうと思った。君の言う通り、僕は自分勝手な人間だ。好きじゃない時は目もくれず、好きになったら何とかして接触しようとする。」
そう言いながら、野村香織の鋭い視線に耐えかね、彼は彼女の手を離した。「人を愛するってどういうことか、僕にはよく分からない。でも分かることがある。君の周りに他の男がいると腹が立つ。過去に君が受けた辛い思いを思い出すと後悔する。十分以上君を見ていないと、抑えきれないほど君のことを考えてしまう。抱きしめたい、キスしたい、話がしたい、一緒に食事がしたい。こんな自分は自己中心的だって分かっている。でも、君のことを好きになってしまった気持ちは止められない。」
渡辺大輔は感情が高ぶり、病気のせいで体が震えているのか、心の内を吐露して興奮しているのか、綺麗な瞳まで赤くなってきていた。「野村香織、もう一度チャンスをくれないか。僕に君を愛させてほしい。君と一緒にいられる機会を下さい。」