第365章 初めて彼女を抱きしめる

「香織、俺はバカだった。今まで愛とは何か知らなかったし、人を愛する方法も分からなかった。離婚してから、結婚式の日のことをよく思い出す。あの日、お前が言った言葉を今でもはっきり覚えている。人生の後半戦の戦友だと言ったのに、たった3年で、なぜ諦めてしまったんだ?この3年間、お前に辛い思いをさせ、苦労をかけ、心身ともに疲れさせてしまった。だからお前は疲れ果てて、俺から離れることを選んだんだ。でも、それは構わない。俺がお前の元へ歩み寄ることができるから」渡辺大輔は野村香織の前に回り込み、熱い眼差しで彼女を見つめながら言った。

過去のことを思い出し、野村香織も当時の純真で無知な少女のことを思い出した。必死に男性の機嫌を取ろうとし、愛を得ようとしていたが、結局は傷だらけになってしまった。心の古傷が再び開かれ、息苦しくなってきた。今考えると笑えるが、渡辺大輔が自分のことを好きではないと分かっていながら、傷つく可能性が高いと知りながら、それでも自分を男の後半生の戦友だと言い張っていた。

香織は笑って言った。「若かったから、単純に考えていただけ。軽い気持ちで言った戯言を、本気にしたの?」

言い終わらないうちに、男が一歩前に出て、両腕を広げ、彼女を抱きしめた。男の熱い体温と胸の中の熱い想いを感じながら、香織は大きな瞳を震わせ、呆然としていた。これが男が初めて彼女を抱きしめた瞬間だった。

「本気にしたよ、香織。本当に本気にしたんだ」渡辺大輔は強く抱きしめていた。まるで香織が逃げてしまうのを恐れているかのように。40度の熱を出していても、相変わらず横暴で卑劣だった。

渡辺大輔は長く抱きしめてはいなかった。すぐに離れたのは、腕の中の女性が涙を流し始めたのを感じたからだ。彼は綺麗な手で女性の目尻の涙を拭おうとしたが、彼女に避けられてしまった。

渡辺大輔は少し弱々しい声で言った。「香織、休んでいいよ。薬を飲んだから、少し寝れば良くなるから」

この言葉は青木翔の言葉と似たようなものだった。香織は軽く彼を見つめ、何も言わずに二階へ向かった。しかし、その夜はほとんど眠れなかった。一つは寝るのが遅かったこと、もう一つは悪夢を見たことだ。夢の中で彼女はまた渡辺家に嫁いだ若妻になっていた……

……