第379章 田中家の禁忌

「隆之ちゃんだ、間違いなく隆之ちゃんだ、絶対に間違いない！」田中孝雄は興奮した表情で言った。

田中家の方々は皆知っていた。田中隆之という名前は田中家の禁忌であり、田中お爺さん以外は誰もその名前を口にすることができなかった。約50年前、まだ未成年だった田中隆之が誘拐されたのだ。

数年前、田中進の祖母が喉頭がんと診断され、生きているうちに娘に会いたいという一心で、化学療法の大きな苦痛に耐え続けていた。先月末、病院は田中進の祖母に危篤通知を出し、現在は特別病室に入院している。

田中隆之は少年時代から、田中家の方々は何年も彼女を探し続けていた。彼らは田中隆之がきっとまだ生きているはずだと信じていたが、どこに連れて行かれたのかわからなかった。しかし今日、田中進がパーティーで初めて野村香織を見たとき、彼は呆然となった。それは野村香織の美しさに驚いたわけではなく、野村香織が叔母の田中隆之にあまりにも似ていたからだ。まるで同じ型から作られたかのようだった。田中進は叔母に会ったことはなかったが、家には田中隆之の写真がたくさんあったので、田中隆之がどんな顔をしているかは知っていた。だから今日野村香織を見たときの衝撃は想像に難くない。

田中孝義も近寄って暫く見ていた。彼も65歳になっていたが、妹の田中隆之の面影をまだ覚えていた。田中孝義は驚いて言った。「この野村香織という娘は、妹にそっくりだ。」

その言葉を聞いて、傍らの田中進もうなずいた。この数年間、彼も叔母の田中隆之を探し続けていたが、ずっと手がかりがなかった。今日パーティーで野村香織を見かけたが、直接尋ねることはできなかった。このような事は、まず家族と相談してから決めなければならない。何しろ祖母の状態では、もう失望を味わうことはできないのだから。それでも彼はすぐに野村香織の身元調査を命じた。時間が短かったため、特別な情報は得られなかったが、一つだけ確実なことがあった。野村香織の本当の母親は、彼の叔母である田中隆之だったのだ。

タブレットの写真を見ながら、田中孝雄の目から濁った涙が流れた。一生を将軍として過ごした彼の目は、亡くなった戦友のためにしか涙を流したことがなかった。それ以外では、これが娘の田中隆之のために流す初めての涙だった。