第368章 あなたは恋愛されている

数分後、野村香織は小さなスーツケースを引いて外に出た。今回は香川市で夏川拓海の誕生日を祝うため、今日を含めて少なくとも二日間はそちらに滞在する予定だったので、パジャマと下着の替え、そして二組の服を持っていった。

今日の河東は雨は降っていなかったが、どんよりとした空模様で、とても重苦しい雰囲気だった。夏川健志は彼女がスーツケースを引いて出てくるのを見ると、すぐに車から降りて手を伸ばしてそれを受け取り、トランクに入れた。

夏川健志は尋ねた。「さあ、何か食べたいものはある?案内するよ。」

夏川健志は河東の出身ではないが、食べ歩きや遊びの習慣は幼い頃から身についていて、この面では野村香織は彼の相手にはならなかった。

野村香織は少し考えてから言った。「秘書から近くに新しくできた麺屋があると聞いたんだけど、試してみない?」

夏川健志は頷いた。「ちょうど麺類が好きなんだ。行こう。」

野村香織は久しぶりに外で麺を食べることになり、今日は気分も良かったので、すぐに興味を持った。そして二人で麺を食べ、少し休憩してから一緒に空港へ向かった。

……

三時間後、飛行機は香川市空港に着陸した。

三年ぶりに香川市を訪れた野村香織は、空港を出た瞬間、まるで別世界にいるような感覚に襲われた。ここが香川市と呼ばれる理由は、街のあらゆる場所に花が植えられているからで、しかもすべて強い香りを放つ花ばかりだった。風が吹くたびに、街全体が香りに包まれる。以前は野村香織もここに定住しようと考えていたが、後に河東でキャリアを築くことになり、結局は香川市を離れることになった。

パレスホテル。

夏川家傘下の五つ星ホテルの一つで、野村香織は夏川健志によってここに宿泊することになり、しかも最高グレードの presidential suiteが用意されていた。

道中、夏川健志のポケットの携帯電話は鳴りっぱなしだった。すべて彼の香川市の友人からの電話だった。彼が香川市に戻るたびにいつもこうだった。結局のところ、お金と地位がある人間には自然と友人が増えるものだ。今風に言えば、友人が多いから道が開けるのではなく、道が開けたから友人が多くなるということだ。