夏川健志の声が聞こえてきた。「野村さん、お知らせしたいんですが、香川市行きの航空券を予約しました。三日後の午後四時の便ですが、時間的にはどうでしょうか?都合が悪ければ、秘書に変更させますが」
野村香織は言った。「時間は丁度いいわ。三日後に空港で会いましょう」
夏川健志は言った。「やっぱり別荘で会いましょう。その時は僕が迎えに行きますから。どうせ一緒に行くんだし」
野村香織は少し考えてから頷いた。「そうですね。その時はお手数をおかけします、夏川若旦那」
夏川健志は笑って言った。「そんな遠慮は要りませんよ。むしろ迎えに行けるのは僕の光栄です。その時は一緒に食事でもしましょう」
電話を切った後、野村香織は夏川拓海への誕生日プレゼントのことを思い出した。六十六歳の誕生日は人生で一度きりだし、夏川拓海の地位を考えると、普通のものではいけない。でも、この件は既に斎藤雪子に任せてあった。
ちょうど野村香織が斎藤雪子のことを思い出した時、斎藤雪子から電話がかかってきた。「雪子?」
電話の向こうで、斎藤雪子が言った。「野村社長、夏川拓海様へのプレゼントの準備ができました。今から写真をお送りしますので、ご確認ください。もしお気に召さなければ、すぐに他のものを探しますが」
彼女の言葉を聞きながら、野村香織はチャットアプリを開いて見た。上品な小さな箱、翡翠のような透き通った緑色の手持ち玉、そばには権威ある鑑定機関の証明書が添えられていた。
野村香織は満足そうに言った。「うん、これなら年配の方も喜んでくれるわ。よくやってくれたわ、ご苦労様」
斎藤雪子は笑って言った。「野村社長のお役に立てて光栄です。他にご用がなければ、私は仕事に戻らせていただきます」
野村香織は急いで言った。「そうそう、ちょっと来てくれない?渡辺大輔が昨夜ここに泊まって、腕時計を置いていったの。嘉星グループまで行って、岡山洋子に渡してくれない?」
電話の向こうで斎藤雪子の表情が一瞬固まり、すぐに我に返って意味深な声で言った。「はい、野村社長。でも、直接お持ちになった方が良いのでは?」
彼女の心中を察して、野村香織は呆れ笑いをしながら言った。「余計な想像はしないで。昨夜彼が高熱で倒れたから、仕方なく泊めただけよ」