渡辺大輔は舞台の下に歩み寄り、周りの人々が野村香織について小声で議論しているのが聞こえた。彼も耳を澄まして、彼らの意見を聞こうとした。
「本当に意外だったわ。夏川社長がこれほど野村香織を気に入るなんて。彼に認められる人は、きっと何か特別なものを持っているはずよ」
「そうね。夏川さんの目は、ビジネスでも人を見る目でも非常に確かだから。こんなに大勢の前で野村香織を推すということは、相当高く評価しているってことよ」
「野村香織は美しいだけじゃなく、品があって落ち着いているわ。さっき小中真子に面と向かって罵られても、冷静さを保っていたでしょう。そんな度量は普通の人には持てないわ」
「夏川さんの言う通りね。私たち、少し偏った見方をしていたわ。人の言うがままに、野村香織を金目当ての女だと思い込んでいた。でも今や夏川家の父子も、渡辺大輔も、彼女を争っているってことは、彼女が非常に優秀な人物だってことの証明よ。彼女が名家に縋ろうとしているんじゃなく、名家の方が彼女を争っているのよ!」