今回、渡辺大輔は一気に飲み干すことはせず、より優雅な様子を見せた。高貴な薄い唇をグラスの縁に当て、少し顎を上げて水を飲む。その動作に伴い、男性のシャツの襟が大きく開き、白い胸筋と完璧な輪郭の鎖骨が露わになった。野村香織は一瞬呆然とし、その後すぐに頬を赤らめた。男性の胸筋も魅力的だと思っていたが、鎖骨は女性よりも美しいとは思わなかった。
一緒に生活したことはないものの、野村香織は渡辺大輔の生活リズムをある程度理解していた。言うまでもなく、渡辺大輔のような男性は珍しく、彼の生活は非常に規律正しかった。週に4日はジムでボクシングをしており、そのため彼の体型がこれほど良かった。唯一野村香織を驚かせたのは、今日の渡辺大輔の酔っぱらった姿だった。彼女の記憶では、渡辺大輔はほとんどお酒を飲まない、というよりも彼が飲酒する姿を見たことがなく、今日のような状態は普段では考えられないことだった。
二杯の水を飲んだ後、渡辺大輔は少し楽になった様子で、グラスをテーブルに置き、野村香織を見て言った。「追い出さずに、直接水を沸かしてくれてありがとう。もう遅いから、これ以上邪魔はしないよ。早く休んでね。」
そう言いながら、彼はソファから立ち上がった。シャツは緩んでおり、ネクタイは手に持っていた。冷たい表情の顔は酔いで薄紅色に染まっていた。
野村香織は一言も発せず、ただ腕を組んで彼が出て行くのを見送った。本来なら彼女はもうベッドで寝る準備をしていたのに、ノックの音で起こされてしまった。ホテルのスタッフかと思ったら、ドアを開けると渡辺大輔が彼女の胸に倒れ込んできた。普段から運動をしていて十分な力があったからこそ、渡辺大輔を受け止められたのだ。普通の女性なら、きっと渡辺大輔に押し倒されていただろう。怒りを抑えて男性のために水を沸かしてあげたのは、まさに太陽が西から昇るようなことだった。
渡辺大輔は壁に寄りかかりながら、ふらふらとドアまで歩いた。出ようとした時、部屋の中の野村香織を振り返って見た。野村香織は先ほどと同じ姿勢のまま動かず、相変わらず淡々とした表情で彼を見ていた。何も言わなかったが、その目に宿る冷たさに渡辺大輔の心は再び痛んだ。この女性がまた怒っているのを知っていた。すべては青木翔のせいだ。でなければ、野村香織の邪魔をすることもなかっただろう。