第385章 ぶっ殺してやる

言い終わらないうちに、彼は渡辺大輔の殺人的な視線を受け、慌てて口の上でチャックを閉める仕草をした。その小さな目つきは明らかに「今回は許してください、二度と話しません」と言っているようだった。

夏川健志が野村香織のためにしたすべてを、渡辺大輔は傍で見ていた。他の男が自分の想い人の世話をする、この気持ちは本当に耐え難かった。彼は窓を壊して夏川健志を投げ出したいとさえ思ったが、それでも我慢した。昨夜すでに一度衝動的な行動をしてしまったのだ。彼女の前で夏川健志と喧嘩をすれば、野村香織に更に嫌われるだけだろう。

同時に、夏川健志は渡辺大輔を一瞥した。彼が顔を曇らせ、まるで世界中が彼に借りがあるかのような表情をしているのを見て、夏川健志は恐れるどころか、むしろ笑みを浮かべた。この渡辺大輔はいつも超然とした態度を取っているのではなかったか?なんと彼にも気にかける事や人がいて、他人のために怒ることもあるのだな。

夏川健志は野村香織を見た。野村香織はすでに眠っていた。彼は一人で通路側に座っているのは確かに少し退屈で、幸い携帯を持っていたので、取り出してネットで小説を読み始めた。しかし、しばらく読んでも面白くなく、退屈していると、渡辺大輔がまだ一瞬も目を離さず彼を見つめていることに気付いた。

「ふん、面白いな」夏川健志は心の中でつぶやき、渡辺大輔のこの様子が本当に面白いと感じ、その場の思いつきで彼をからかうことにした。

彼は渡辺大輔に向かって笑みを浮かべた。その笑顔には挑発的な意味が満ちていた。渡辺大輔が馬鹿でなければ、自分に宣戦布告していることが分かるはずだ。夏川健志が得意げな様子を見せると、渡辺大輔は両手を強く握りしめた。彼は手を出さない衝動を抑えていた。

そのとき、夏川健志はシートベルトを外し、まっすぐに野村香織の側に行き、直接手で野村香織の毛布を掛け直した。あいにく、このとき飛行機が突然揺れ、夏川健志は足を踏み外し、転倒はしなかったものの、体全体が野村香織の上に覆いかぶさるような形になった。野村香織の座席の背もたれを両腕で支えていなければ、この時二人は唇を重ねていたはずだった。眠っている野村香織は、夏川健志の大きくたくましい体にほぼ完全に覆われ、夏川健志以外の誰も野村香織を見ることができなかった。