渡辺大輔は筆を置き、個室から出ていこうとして言った。「ちょっと外で息をつきたい」
彼は本当に息抜きが必要だった。たった2時間だったが、彼にとっては一年のように感じられた。川井若菜の話を聞いただけで息が止まりそうなほど怒りを覚えた。あの3年間、野村香織がどれほどの辛い思いをしたのか想像に難くなかった。
外は墨のように真っ暗で、小雨は大雨に変わっていた。渡辺大輔は魂を失ったかのように大雨の中を歩いていった。彼の取り乱した様子を見て、青木翔は急いで傘を差して追いかけた。「大輔、何をしているんだ?自分を痛めつけても何の意味もないぞ」
渡辺大輔は俯いたまま言った。「放っておいてくれ。一人にしてくれ」
青木翔は苦笑いしながら言った。「放っておきたいけどさ、車のキーを持ってるのはお前だろ。こんな大雨の中、出てきたくなかったんだよ」
渡辺大輔は冷たい目で彼を一瞥し、怒鳴った。「消えろ!」
青木翔は首をすくめた。「おいおい、こんな大雨なのに、キーをくれないと帰れないだろ?」
次の瞬間、渡辺大輔は青木翔の手首を掴み、力強く駐車場へと引っ張っていった。青木翔は足を踏み外しそうになり、反射神経が良くなければその場で転んでいただろう。
青木翔は慌てて言った。「おい、大輔、なんで引っ張るんだよ?」
渡辺大輔は振り向きもせずに言った。「帰れないって言うから、俺が送ってやる!」
青木翔は「……」
この状態の渡辺大輔に車で送ってもらうくらいなら、歩いて帰った方がマシだ。以前も渡辺大輔の車に乗ったことがあるが、吐き気で散々な目に遭った。
「いや、歩いて帰るから!」青木翔は慌てて降参した。
「遅い。今夜は絶対に送る」そう言って渡辺大輔は助手席のドアを開けた。
猛スピードで走った後、渡辺大輔は青木翔をボクシングジムに連れて行った。青木翔は再び、その毒舌のせいでサンドバッグ代わりにされることになった。渡辺大輔は狂ったように青木翔を攻撃し、全力で殴りかかった。まるで本当に青木翔を殺そうとしているかのような勢いだった。青木翔は反撃したくても出来ず、渡辺大輔のパンチは止まることを知らず、ただ受け身の防御を続けるしかなかった。耐えられなくなった青木翔は地面に倒れ込んだ。