数秒後、小村明音は鼻を鳴らして言った。「大丈夫だと思うわ。資産なら、夏川拓海の方が多いから、お金目当てじゃないはず。お金目当てじゃないなら、問題ないでしょ」
野村香織は首を振って「切るわ!」
小村明音「……」
小村明音は香織が夏川拓海の申し出を受けることに賛成だったが、香織はまだ決心がつかなかった。この件については、もう少し時間をかけて考える必要があった。ただ、明音の言うことは一理あった。お金以外に、自分には夏川拓海を引きつけるものは何もないように思えた。でも、お金で比べるなら、自分の資産なんて夏川拓海の2000億と比べたら、比べ物にならないほど少ない。だから夏川拓海は本当に自分のことを好きで、ただ娘がいないことの寂しさを埋めたいだけなのかもしれない。
たっぷり食事を済ませた後、香織はベッドに横たわるとすぐに深い眠りに落ちた。五つ星ホテルだろうが、プレジデンシャルスイートだろうが、どこも自分の部屋ほど快適ではない。外で小雨がしとしとと降る音を聞きながら、香織は安らかな眠りについた。
……
渡辺邸。
香織の深い眠りとは対照的に、渡辺大輔の気分は今日の天気のように暗かった。もう七、八ヶ月も渡辺邸に帰っていなかったが、今日は珍しく様子を見に戻ってきた。
麻雀から帰ってきたばかりの二見碧子を見て、大輔はソファに座ったまま低い声で言った。「帰ってきたのか」
二見碧子は一瞬驚いた。大輔が今日帰ってくるとは思っていなかった。何か言おうとしたが、ソファの反対側に座っている渡辺奈美子と渡辺秀雄の兄妹が目に入った。二人とも頭を下げたまま黙っていた。
二見碧子は眉を上げ、部屋の雰囲気がおかしいことに気づいたが、何も見なかったふりをして言った。「大輔、帰ってくるなら先に言ってくれれば良かったのに。そうしたら麻雀をこんな遅くまでしなかったし、早く帰って料理を作ったのに」
大輔は顔を上げて碧子を見つめ、渦巻くような冷たい感情を目に宿して言った。「食事は結構だ。腹も減っていない。今日帰ってきたのは、話があるからだ」
二見碧子は大輔の視線に背筋が寒くなり、干笑いして言った。「な、何の話?帰ってきたんだから、どんな重要な話でも食事の方が大事でしょう」