私は手すりにつかまって深い海面を見つめていた。海風が私の髪を優しく揺らし、まるで前に進め、前を見て、振り返るなと励ましているようだった。
状況は人より強い。今や、半夏の願い通り、私はもう記憶喪失のことを考えなくなった。記憶があろうとなかろうと、私は前に進まなければならない。先行きは不透明で、季節の移ろいを嘆く余裕などない。
背後から足音が聞こえた。平野晴人がわざと足音を重くして近づいてきたのだとわかった。
振り返らずに言った。「みんな落ち着いた?一晩で多くの仲間を失って、きっと辛いでしょう。」
平野晴人は私から数歩離れた手すりのところで立ち止まり、私と同じように海面を見つめた。「最初から、私たちは皆、将来多くの死に直面することを知っていました。もう慣れています。」
私は少し笑った。「平野さん、皆さんがどんな願いを持っているか調べてメモしておいてください。いつか、それを叶えてあげたいの。私はお金だけはたくさん持っているでしょう?もし皆さんの願いがお金で解決できるなら、それに越したことはないわ。お金で解決できる問題は問題ではないのだから。」
平野晴人は一瞬驚き、静かに言った。「彼らに代わってお礼申し上げます、お嬢様。」
私は微笑んだ。「何のお礼も要りません。私の命は彼らが救ってくれたもの。彼らの望むものには価値がありますが、私の命は、無価値です。」
私の声は小さくなり、独り言のように続けた。「私に何があって皆さんが従うのでしょう?今でも私を選んでくれることに、感謝しきれません。」
平野晴人は少し慌てた様子で言った。「お嬢様、私たちは堂本家の死士です。堂本家に人が残っている限り、私たちは離れることも諦めることもありません。」
私は微笑み、それ以上何も言わなかった。
私の姓は南なのに、堂本家の者は半分だけなのに。
「お嬢様、まだここをうろついているんですか!」半夏の姿が見えないうちに、その声が聞こえてきた。
彼女は小走りに駆けてきて、平野晴人を見ると急ブレーキをかけた。
彼女はこういう人たちを少し恐れているのだ。
平野晴人は軽く頭を下げた。「お嬢様、私は先に戻ります。」
私はうなずいた。
平野晴人の去っていく背中を見ながら、半夏は私に寄り添い、小声で言った。「お嬢様、何を話していたんですか?」