019 青ざめた顔

榊蒼真は、藤丸詩織が酔っ払った後でこんなに可愛らしくなるとは思わなかった。思わず軽く笑ってしまった。

彼の笑い声は短かったものの、藤丸詩織にすぐに気づかれてしまった。彼女は不機嫌そうに頬を膨らませ、怒って尋ねた。「私のことを笑ってるの?」

「いいえ、違います」榊蒼真は慌てて否定し、すぐに続けて尋ねた。「お姉さん、場所を教えてくれませんか?僕が迎えに行きますから」

その質問に対して、藤丸詩織は少しも躊躇せずに直接場所を告げた。「京都で一番豪華な地区のバーにいるの。...名前は何だったかしら?思い出せないわ」

藤丸詩織は最後の方で、少し悔しそうな声を出した。

「お姉さん、心配しないで。僕が探しに行くから、その場所から動かないでくださいね?」榊蒼真は藤丸詩織の悔しそうな声を聞いて、慌てて優しく声をかけた。

「はい」藤丸詩織は素直に答えた。

しかし電話を切った後、藤丸詩織は約束したことをすっかり忘れてしまい、ステージに飛び乗って音楽に合わせて踊り始めた。

藤丸詩織は気づいていなかったが、カメラはすでに彼女に向けられており、大画面に映し出されていた。

会場にいる全員が藤丸詩織に注目していた。三階の個室にいる桜井蓮も含めて。

桜井蓮は大画面で音楽に合わせて踊る藤丸詩織をじっと見つめ、先ほどの彼女が誰かと電話で話しながら艶やかに笑っていた様子を思い出し、顔色が青ざめた。

彼は両手を握りしめ、力が入りすぎて手の甲の血管が浮き出ていた。

隣のソファに座っていた周防司は、怒りに満ちた桜井蓮を見て、周囲の温度が下がったような気がした。

周防司は、ここ二日ほど桜井蓮が不機嫌そうだったので、気分転換に連れ出そうと思ったのだが、気分転換どころか、むしろ更に不機嫌になってしまった。

彼は大画面に映る藤丸詩織だと分かった。ただ、今朝離婚したばかりではなかったのか?なぜ桜井蓮は今でも怒っているのだろう?

周防司は困惑しながら、凍死の危険を覚悟で尋ねた。「離婚したのに、なぜまだ藤丸詩織のことで怒るんだ?」

「俺は...」桜井蓮は激怒して口を開いたが、一言目で周防司の言葉の意味に気づいた。

気づいた後、彼は呆然となった。そうだ、なぜ怒っているんだろう?

周防司は桜井蓮が呆然としているのを見て、やっと勇気を出して続けた。「元カレ・元カノは死んだものと思えって言葉があるだろう。あまりいい言い方じゃないけど、兄弟、お前もそれを学んだ方がいいと思うぞ」

「うるせえ」桜井蓮は冷たく言い放った。

周防司は肩をすくめ、仕方なく答えた。「わかったよ」

どうせ自分の言いたいことは言い終えたのだから、聞くか聞かないかは桜井蓮次第だった。

桜井蓮は周防司の言うことが正しいと分かっていた。藤丸詩織を邪魔すべきではないはずだ。でも、彼女が肩を露出し、その眩しい笑顔を他人に向けているのを見ると、心臓が酸っぱく膨れるような不快感を覚えた。

周防司は桜井蓮が冷たい表情で画面を見つめ、グラスを強く握りしめているのを見ていた。本当に、グラスを握りつぶすんじゃないかと心配になった。

周防司は注意しようと思ったが、声を出す勇気がなかった。先ほど「うるせえ」と言われたことをまだ覚えていたからだ。

しかし周防司の記憶では、以前は桜井蓮は藤丸詩織のことが好きではなかったはずだ。仲間と集まる時に彼女の話題が出ると、桜井蓮は不機嫌になっていたのに、今はなぜこんなに気にしているのだろう?

困惑して桜井蓮を何度も見つめたが、彼はいつも同じ動作をしていた。それは大画面を鋭い目つきで見つめることだけだった。周防司は不思議に思った。そんなに見るほどのことがあるのだろうか?

周防司も上を見上げた。先ほどは軽く見ただけで、輪郭を大まかに見ただけだったが、今じっくり見てみると、驚きを感じた。

大画面に映る女性は、華やかで奔放な美しさを放ち、特に目を引く存在感があり、思わず注目せずにはいられなかった。

しかし周防司は以前藤丸詩織に会ったことがあったが、その時は確かに美しかったものの、今ほどではなく、魂が感じられなかった。

突然、横から大きな音が聞こえ、周防司は驚いて身を震わせ、すぐに振り向いた。そこには桜井蓮が急いで階下に向かう背中が見えただけだった。