これぞ蹴りだ

桜井蓮は我に返り、素早く水野月奈の側に歩み寄って彼女を支え起こし、優しく尋ねた。「月奈、どうしたの？」

水野月奈は桜井蓮に寄り添い、彼の胸に顔を埋めて泣きながら言った。「藤丸詩織さんが私を蹴ったの。今、足がすごく痛いの。蓮お兄さん、私、もうダンスができなくなっちゃうのかな？うぅ……」

桜井蓮は「蹴られた」という言葉を聞いて、一瞬恍惚とした。昨夜、榊蒼真に蹴り倒された出来事を思い出したのだ。

彼の瞳が一瞬凶暴になり、その後藤丸詩織を見上げて問い詰めた。「なぜ月奈を押したんだ？彼女を妬んでいるのか？」

「私が彼女を妬む？」藤丸詩織は桜井蓮の言葉を聞いて驚いて目を見開き、そして尋ねた。「水野月奈のどこに妬むところがあるというの？」

「ふん、彼女が私と一緒にいられることを妬んでいるんだろう。そうでなければ、なぜ彼女を押すんだ？」桜井蓮はそう言いながら、藤丸詩織を嫌悪の目で見た。

藤丸詩織は黙り込んだ。しばらくして、ようやく声を取り戻した。「桜井社長、妄想症があるなら早めに治療した方がいいわ。そうしないと、後で骨の髄まで蝕まれたら、もう手遅れよ」

藤丸詩織は桜井蓮とこれ以上関わりたくなかったので、彼の顔に怒りが浮かんでいるのを見ても、彼が何か言う前に直接言った。「そうそう、私は水野月奈を蹴っていないわ」

桜井蓮は元々胸に怒りが詰まっていたが、これを聞いて爆発した。「お前が押したんじゃないなら、月奈が自分で転んだとでも言うのか？」

「そうだ」榊蒼真は断固として答え、スマートフォンを取り出して先ほど撮影した動画を見せた。「自分で見てみろ」

そう言って、榊蒼真は動画を再生した。

動画には明らかに藤丸詩織が水野月奈を押していない様子が映っており、水野月奈が突然転んでいた。

水野月奈の顔が青ざめた。榊蒼真が録画していたとは思わなかった。瞳に暗い影が差し、桜井蓮を見上げると、無邪気な表情で涙を頬に浮かべた。

彼女は首を振り続け、助けを求めるように言った。「動画がどうなっているのか分からないけど、さっきは確かに藤丸詩織さんが押したの。蓮お兄さん、今足がすごく痛いの。早く行きましょう？」

元々桜井蓮の心には疑いがあったが、水野月奈の様子を見て、そして彼女の言葉を聞いた後、心の中で否定した。月奈がどうして嘘をつくはずがない？