046 私を信じて

桜井蓮は顔を曇らせ、箸を弁当箱に投げつけ、冷たい声で相良健司に怒鳴った。「出て行け！」

相良健司は一刻も無駄にせず、足早にオフィスを出ながら、心の中で呟いた。桜井社長は奥様と離婚してから、ますます機嫌が悪くなっている！

同時に相良健司は感慨深く思った。奥様は桜井社長のことを本当に愛していたんだ。こんな犬のような性格に対しても、耐えられるだけでなく、24時間心を込めて世話をし、一切不満を見せなかった。

桜井蓮は椅子に座って息を切らしながら、なぜ離婚後も藤丸詩織の姿が取り憑いたように頭から離れないのか理解できなかった。

藤丸詩織という女は本当に手が込んでいる。一緒にいる時は、手作りの料理を作り、服を買って整理するなど、生活のあらゆる面に入り込んで、彼を離れられなくさせようとしていたのだ。

そう考えると、桜井蓮は冷笑し、瞳に嘲りを浮かべた。

藤丸詩織がそう考えているなら大間違いだ。なぜなら、藤丸詩織は彼の生活に何の影響も与えていないのだから！

この相良健司もますます役立たずになってきた。頼んだ仕事もろくにできないくせに、藤丸詩織の側にいる男が名医だなどと的外れな推測をする。

まったくの笑い話だ！

もし彼が名医の弟子なら、名医の側にいるということは、藤丸詩織が名医ということになるではないか？

桜井蓮はそれを考えただけで自分が狂っているように感じた。結局、藤丸詩織は字もろくに読めないスラム出身の女だ。そんな大きな能力があるはずがない。

それに、彼は名医に会ったことがある人間なのだ。

五年前、彼がヨーロッパに出張した時、偶然にもテロ事件に遭遇した。首謀者はすぐに現地警察に制圧されたものの、不運なことに、彼は二発の銃弾を受けてしまった。

現地の病院に運ばれた時、医師は何度も危篤通知を出し、手術同意書も何度も署名され、もう救命を諦めようとしていた時、名医が現れ、親切にも彼を治療してくれた。

桜井蓮は手術中、一瞬意識が戻り、ぼんやりと名医の姿を見た。

名医は医療着を着て、マスクをしていたが、きっと気品のある女性に違いないと感じた。そして、その目は純粋で強い意志に満ちていて、藤丸詩織のような弱い女性とは比べものにならなかった。

桜井蓮は手の中の半分の翡翠のペンダントを見つめながら、そう確信していた。