藤丸詩織のその言葉とともに、榊蒼真の心の中の最後の期待も打ち砕かれた。
展覧会の会場はそれほど遠くなく、しばらくすると到着した。
車が停まると、榊蒼真が先に降り、藤丸詩織側に回って手を差し伸べて彼女を支えた。
榊蒼真の影響力は絶大で、彼が車から降りると、まるで示し合わせたかのように、記者たちが一斉にカメラを向けた。
「私の目は間違っていないでしょう?榊蒼真が本当に帰国して、それも私が撮影できたなんて。彼が帰国して活動するというニュースは本当だったの?」
「彼の隣にいる女性は誰?とても綺麗だけど、芸能界の新人?」
「芸能界の人じゃないと思う。もし業界の人なら、とっくにトレンド入りしているはず。きっと名家のお嬢様じゃないかしら」
「普段冷淡な榊蒼真が、女性を連れているのを見たのは初めて。しかもあんなに優しく微笑んでいるなんて、もしかして良い知らせが近いのかも?」
「その可能性は高いわね!」
……
榊蒼真はこのような場面に慣れていたが、藤丸詩織が不快に感じるのではないかと心配で、小声で慰めた。「記者たちは招待状を持っていないから、展覧会に入れば写真は撮られないよ」
藤丸詩織は頷き、彼のように小声で答えた。「わかった」
藤丸詩織は返事をした後、重要な問題を思い出した。「そうだ、記者に写真を撮られて大きな影響があるんじゃない?私がスクープを買い取る必要はある?」
「必要ない!」榊蒼真は急いで答えた。
藤丸詩織の視線に気付いて、榊蒼真は自分の感情が激しすぎたことに気付き、落ち着いて再び口を開いた。「これらの写真は私に何の影響もないから、削除する必要はないよ」
榊蒼真がそう言うなら、と藤丸詩織も同意した。「わかった」
今回の展覧会は全国でも指折りの規模で、多くの巨匠の作品が展示されていた。
藤丸詩織が今回来たのは、父親へのプレゼントとして最高の絵画を購入したいと思ったからだ。
来場者は皆、富豪か貴族で、全国的に名の通った人物ばかりだったが、榊蒼真と藤丸詩織が入ってくるのを見て、思わず息を呑んだ。
男性は金縁の眼鏡をかけ、黒いスーツを着て、知的な悪役のような雰囲気を醸し出していた。