056 もう叫ぶな

藤丸詩織の声が響き渡ると、オークションの会場は一瞬にして静まり返り、人々は驚きの表情で藤丸詩織のいる個室の方向を見つめた。

高遠蘭子が声を上げた後、誰もが暗黙のうちにこの絵は彼女のものになると思い込んでいた。結局のところ、一枚の絵のために桜井家と敵対したくはなかったからだ。しかし、思いがけず競り合う者が現れた。

外の人々だけでなく、当事者である高遠蘭子も今回は確実だと思っていたのに、途中で藤丸詩織が現れるとは予想もしていなかった。

高遠蘭子の表情が一変し、先ほどの光景を思い出しながら、パドルを上げて叫んだ。「110万!」

藤丸詩織がパドルを上げる。「500万」

高遠蘭子は闘志を燃やして、「510万」

榊蒼真は隣でパドルを上げる藤丸詩織に向かって、小声で尋ねた。「お姉さん、この絵が気に入ったの?」