藤丸詩織の声が響き渡ると、オークションの会場は一瞬にして静まり返り、人々は驚きの表情で藤丸詩織のいる個室の方向を見つめた。
高遠蘭子が声を上げた後、誰もが暗黙のうちにこの絵は彼女のものになると思い込んでいた。結局のところ、一枚の絵のために桜井家と敵対したくはなかったからだ。しかし、思いがけず競り合う者が現れた。
外の人々だけでなく、当事者である高遠蘭子も今回は確実だと思っていたのに、途中で藤丸詩織が現れるとは予想もしていなかった。
高遠蘭子の表情が一変し、先ほどの光景を思い出しながら、パドルを上げて叫んだ。「110万!」
藤丸詩織がパドルを上げる。「500万」
高遠蘭子は闘志を燃やして、「510万」
榊蒼真は隣でパドルを上げる藤丸詩織に向かって、小声で尋ねた。「お姉さん、この絵が気に入ったの?」
藤丸詩織は軽くうなずいて、「まあまあね」
藤丸詩織の返事を聞いた榊蒼真は言った。「お姉さん、僕に任せて。僕が競りに参加するよ」
そう言うと、榊蒼真はパドルを上げて言った。「1000万」
男性の低い声が静寂の中に石を投げ込んだような波紋を広げ、会場中が驚愕した。誰も50万円相当の絵が1000万円もの値段で競られるとは思っていなかった。
「誰だろう、こんなに豪快な人が。桜井家に逆らうだけでなく、いきなり1000万円も出すなんて!」
「さっき榊蒼真があの個室に入るのを見たよ」
「榊蒼真か、それなら納得だ。彼の知名度からすれば、桜井家と同じくらいの実力を持つ企業が彼と協力したがっているからね。だから桜井家を怒らせても、他の企業が彼を守るだろう」
「榊蒼真と比べると、桜井家がちょっと小さく見えるな。他の人は数百万単位で上げているのに、彼女は毎回10万円ずつしか上げない」
……
オークション会場の個室は防音されておらず、下のフロアの人々の囁き声が一言も漏らさず高遠蘭子の耳に届いた。すでに良くなかった彼女の表情は、さらに悪化した。
高遠蘭子がパドルを上げて声を上げようとした瞬間、桜井蓮が冷たい声で言った。「もういい」
高遠蘭子は信じられない様子で彼を見つめ、尋ねた。「どうして?」