073 詐欺師のことを考えている

久我湊:「名簿を受け取ったばかりです。今メールでお送りしますが、これは現時点で判明している死亡者のリストだけです。まだ不明な人もいて、調査を続けています」

藤丸詩織は名簿を開き、一つ一つの名前に真剣な眼差しを向けながら、徐々に眉をひそめていった。しかし、最後まで目を通しても、見覚えのある名前は一つもなかった。

調査は全く進展がなく、藤丸詩織は誰が自分を助けてくれたのかまだわからないままだった。

どうやら、藤丸明彦の方から手をつけるしかないようだ。

昼時、桜井家。

水野月奈は赤いロングドレスを身にまとい、桜井蓮のために用意した昼食を持って会社に入った。

道中、多くの人々の視線が水野月奈に注がれ、周りの人々は小声で話し合っていた。

「あの人誰?予約もなしに社長室に向かってるけど」

「えっ、知らないの?有名なダンサーの水野月奈よ。社長のお気に入りで、私たちの未来の女社長になる人よ!」

「未来の女社長って...でも社長って既に結婚してたんじゃない?今また新しい恋人がいるなんて、それって渣男じゃない?」

「もう離婚したのよ。残念ながら前の奥様がどんな方か見たことないけど、きっと美人じゃなかったんでしょうね。そうじゃなきゃ、社長が他の女性を好きになるはずないもの。だって聞いた話では、社長は水野さんのために前の奥様と離婚したんですって」

...

従業員たちの囁き合いに、水野月奈はまったく気にしていなかった。所詮貧乏人たちで、自分に何の利益ももたらさない人々だから、相手にする価値もないと思っていた。

水野月奈は社長室に入る前に、優しい笑顔を浮かべ、そっとドアを開けると、桜井蓮が真剣に書類に署名している姿が目に入った。

桜井蓮は冷たい表情で眉をひそめながら顔を上げたが、赤い服を見た瞬間、不機嫌な表情が消え、目の前が少しぼんやりとした。頭の中にバーでの藤丸詩織が赤い服で熱く踊っていた姿が浮かんできた。

水野月奈は桜井蓮の上の空な様子に気づき、頭を下げて恥ずかしそうに微笑み、小声で言った。「蓮お兄さん、そんな風に見つめないで...私、恥ずかしくなっちゃう」

桜井蓮は水野月奈の声を聞いて我に返り、目に複雑な色が浮かんだ。急いで立ち上がって前に進み、彼女の手から保温箱を受け取りながら、優しく尋ねた。「ごめん月奈、君があまりに綺麗で、つい見とれてしまった」