橘譲はすぐに藤丸詩織の気持ちの落ち込みを感じ取り、心配そうに彼女を見つめながら、優しく声をかけた。「詩織...」
藤丸詩織は顔色が青ざめていたが、それでも橘譲に笑顔を向けて言った。「お兄さん、心配しないで。大丈夫よ。ただ結婚式を見て、私と桜井蓮の結婚式のことを思い出しただけ」
橘譲は後悔を感じずにはいられなかった。式が始まってからライブ配信を見せるべきだった。そうすれば彼女は過去を思い出すことはなかったはずだ。
その時、司会者が登場し、会場を温めた後に声を張り上げた。「新郎新婦の入場です!」
藤丸詩織はその言葉を聞いて、胸が締め付けられる思いがした。顔を背けながら言った。「お兄さん、これからの映像は見たくない...」
藤丸詩織の言葉が終わらないうちに、パソコンから突然、古臭い音楽と悲しみ、喜び、トレンド、洗脳的な要素が混ざり合った騒々しい音楽が流れ出した。
藤丸詩織と橘譲は、この騒々しい音楽に打ちのめされ、呆然となった。
呆然としたのは二人だけではなく、結婚式の会場にいた全ての来賓も同様だった。現場にいる彼らにとって、混ざり合った音楽はより一層騒々しく感じられた。
「桜井家は業界でもトップクラスの地位なのに、どうしてこんな初歩的なミスを犯すの?結婚式の前にリハーサルをしなかったの?」
「音が大きすぎて、あなたの言葉が聞こえないわ。私の耳が、私の耳が汚染されてしまった!来なければよかった。もし私の耳に問題が出たら、桜井家を許さないわ」
「なぜ誰も対処しないの?」
...
桜井蓮は顔を青くしながら司会者のところへ行き、低い声で言った。「どういう仕事ぶりだ。誰かに解決させろ」
司会者は震えながらも勇気を振り絞って叫んだ。「桜井社長、お声が小さくて聞こえません!」
桜井蓮は目の前が真っ暗になる思いがし、相良健司に目配せをした。
相良健司は合図を理解し、司会者の耳元で桜井蓮の言葉を伝えた。
司会者はそれを聞いて安堵の息をつき、額の汗を拭いながら、相良健司に近づいて説明した。
相良健司はそれを聞いて、急いで桜井蓮に報告した。「社長、司会者の話では、我々の音響はまだ起動していないそうです。隣のビルから流れている音のようです」
桜井蓮は眉をひそめ、イライラした様子で怒鳴った。「問題がわかったなら、さっさと解決しに行け!」