水野月奈は桜井蓮の変化を感じ取り、心の底から不安になっていった。
桜井蓮は水野月奈に完全に失望し、しばらくして冷たい声で言った。「月奈、私たちの婚約は破棄しよう」
水野月奈は呆然とした。桜井蓮がこんな言葉を口にするとは思わなかった。彼女は信じられない様子で尋ねた。「でも、あなたは約束したじゃない。私がどんな要求をしても、全部受け入れるって」
桜井蓮はそれを否定せず、口を開いた。「確かにそう言った。だが、今その約束は無効だ」
桜井蓮はそう言うと、傍らの車に乗り込んだ。
水野月奈が我に返って桜井蓮の車を追いかけたが、車はどんどん速度を上げ、すぐに姿が見えなくなった。
水野月奈は地面に倒れ込んだ。彼女の顔は腫れ上がり、頬には何発もの平手打ちの跡が残っていた。純白で華やかなウェディングドレスは今や泥まみれになっていた。今日起きた出来事を思い出し、うつむいて声を上げて泣き出した。
しばらくして、水野月奈は顔を上げ、バッグから携帯電話を取り出して電話をかけた。
相手はすぐに電話に出た。水野月奈は泣きながら訴えた。「おばさん、私もうダメ。私のことがバレちゃって、蓮さんが結婚してくれないって」
水野琳はあくびをしながら、淡々と言った。「さっきの結婚式の生中継を見たわ。大したことじゃないわよ」
水野月奈は涙を拭いながら、まだ泣きそうな声で言った。「でも、私の過去の動画が全部見られちゃって、高遠蘭子のあのクソばばあも蓮さんとの結婚に絶対反対してて」
水野琳は目を冷たく細めて、低い声で言った。「高遠蘭子なんて私の負け犬よ。私は彼女の夫を奪えたんだから。私の姪である貴女なら、彼女の息子くらい手に入れられるはずよ。心配しないで、これからどうすればいいか教えてあげる。そうすれば、貴女は必ず桜井奥さんになれるわ」
水野琳の言葉を聞いて、水野月奈はすぐに安心した。
そうだ、おばさんは高遠蘭子の夫を誘惑できた人なんだから、この程度の問題なんて簡単に解決できるはず。
水野月奈は納得すると、笑顔で言った。「ありがとう、おばさん。おばさんがいなかったら、私どうしたらいいか分からなかった」
水野琳は返事をすると、続けて言った。「今はマスコミを避けなさい。迎えの車を手配するわ」
記者たちはすでに山腹で待ち構えていて、桜井蓮の車を見つけると、我先にと車を取り囲んだ。