水野月奈は桜井蓮の考えを知らなかったが、彼が受け取るのを見て安心し、笑顔で言った。「病院まで送ってくれる?」
桜井蓮はきっぱりと断った。「会社に用事があるから、自分で帰れ」
桜井蓮はそう言うと、水野月奈の反応を待たずに足早に立ち去った。
水野月奈は桜井蓮の背中を見つめ、信じられない様子でその場に立ち尽くした。
水野月奈は、藤丸詩織に虐められたという話を聞いて来てくれたのだと思っていたが、まさか彼が彼女のことを一言も気にかけず、そそくさと帰ってしまうとは。
もしかして桜井蓮は藤丸詩織のために来たのか?
いや、そんなはずない。あんな女のために来るわけがない!
水野月奈は必死に否定し続けたが、藤丸詩織のことを考えると、心の底から憎しみが湧き上がってきた。
桜井蓮が店を出ると、数人の店員が包装された品物を手に持って車に積んでいるところだった。
桜井蓮はそれを見て、思わず近寄って尋ねた。「これは誰が買ったんだ?」
これらの店員は配達専門で、先ほど店内にいなかったため何が起きたのか知らず、質問に笑顔で答えた。「店のホワイトカードVIP会員の藤丸詩織様が、榊蒼真様へのプレゼントだと伺っています」
「しかも一度に数十着のスーツと、それに合わせたアクセサリーを。藤丸様は榊様のことを本当に愛していらっしゃるんでしょうね」
「私もそう思います!」
……
店員たちが車で去り、声が小さくなってずいぶん経ってから、桜井蓮はようやく我に返った。しかし彼らの言葉を思い出すと、顔は炭のように黒くなった。
藤丸詩織がホワイトカードVIPになれるということは、きっと榊蒼真にかなりの金を使ったということだ。
ふん、榊蒼真はただのヒモ野郎だ。藤丸詩織という女に金を使わせて、しかも一度に数十着も。所詮は女に寄生する男だ!
桜井蓮は心の中でそう思いながらも、藤丸詩織が自分にはネクタイ一本しか贈らなかったことと比べると、非常に不愉快な気分になった。
桜井蓮は大股で車に乗り込み、ドアを強く閉め、猛スピードで発進した。
相良健司は桜井蓮が怒り狂って戻ってくるのを見て、藤丸詩織に会いに行って撃沈したのだろうと察した。
最近はいつもこんな感じだったので、もう慣れていた。
相良健司は呆れて首を振り、心の中で「ちぇっ」と舌打ちした。