194 雰囲気を楽しむ

榊蒼真は藤丸詩織の方を向いて、優しく尋ねた。「お姉さん、レースを見に行きたいですか?」

藤丸詩織は目を輝かせながら榊蒼真を見て言った。「見たい!そうそう、この後、私の三番目のお兄さんの橘譲もこのレースに参加するの。すごく強いのよ。レースが終わったら、紹介してあげる」

榊蒼真の瞳に一瞬暗い光が宿ったが、すぐにいつもの素直な様子に戻り、頷いて言った。「はい、お姉さんの言う通りにします」

桜井蓮が藤丸詩織の方を向くと、彼女が榊蒼真と笑顔で話している姿が目に入った。

周防司は桜井蓮の動きに気付かず、司会者の言葉を聞いた後で尋ねた。「この後、レース見に行く?」

桜井蓮は冷たく答えた。「行かない」

周防司「そう、じゃあ俺一人で...あれ、どこ行くの?」

周防司は桜井蓮が突然立ち上がった理由が分からなかったが、後を追って歩いて行った。

周防司は桜井蓮が足を止めるまでずっと付いて行き、やっと顔を上げると、なんとレース会場に着いていた。

でも桜井蓮はさっき、レースを見に行かないと言ったばかりじゃなかったか?

周防司が桜井蓮の視線の先を追うと、藤丸詩織と榊蒼真の姿が見えた。そして、さっきまで分からなかったことが一気に理解できた。

周防司「...」

展示会とレースは連続して開催され、その間はわずか10分。時間はとても短く、もう始まりそうだった。

榊蒼真は藤丸詩織に優しく尋ねた。「お姉さん、隣に座ってもいいですか?」

藤丸詩織は頷き、隣の席を軽く叩いて言った。「どうぞ、元々あなたのために空けておいた席よ」

榊蒼真は唇を引き締めて微笑み、座りながら少し横を向いた。後ろにいる桜井蓮に目をやった時、その瞳に暗い光が宿った。

すぐに司会者の合図で、レーサーたちが次々と車を走らせて登場し、同時にリズミカルな音楽が流れ始めた。観客たちはますます興奮し、歓声を上げた。

藤丸詩織はレーサーが登場した時、一目で銀灰色の車を見つけた。そこには「譲」の文字があり、これは彼女の三番目の兄の専用車だった。

藤丸詩織も周りの雰囲気に感染され、橘譲の方向に向かって「頑張って!」と声を掛けた。

周りは歓声を上げる人が多く、とてもうるさかったので、藤丸詩織は橘譲に聞こえるとは思っていなかった。しかし思いがけず、銀灰色の車の窓が開き、橘譲は一目で彼女を見つけ、笑顔で一言を言った。