272 手術成功

衛宮院長は慌てて駆けつけ、藤丸詩織の冷たい瞳と目が合うと、その場で固まってしまった。

長谷司は衛宮亮を見かけると、目を輝かせ、藤丸詩織を指差して言った。「院長、この小娘が自分は名医だと言い張っているんです!」

時間が一分一秒と過ぎていく中、院長は何も言わなかった。

長谷司の顔に一瞬の戸惑いが浮かんだが、すぐに平静を取り戻し、藤丸詩織を見つめて言った。「院長も名医を騙るようなあなたに呆れて言葉も出ないようですね。あなたは…」

衛宮亮は長谷司が藤丸詩織を指差す手を払い落とし、厳しい声で叱責した。「名医を指差すその手を下ろしなさい!」

長谷司は呆然として、信じられない様子で言った。「院長、まさか彼女が名医だというんですか?」

長谷司は院長の返事を待たずに続けた。「そんなはずがない、こんな若そうな人が、どうして高度な医術を持つ名医なんかになれるんですか?」

衛宮亮は断言した。「私に間違いはない、彼女こそが名医だ!」

数年前、病院が難しい症例に直面した時、医師たちが皆絶望的になった時に、名医が現れて無事に手術を成功させたのだ。

衛宮亮と師匠は当時、手術室で名医の助手を務めていた。

その時、名医はマスクをしていて具体的な容貌は見えなかったが、衛宮亮はその冷たい瞳を覚えていた。

何年も経っているが、この目を見た瞬間に一目で分かったのだ。

長谷司が「でも…」と言いかけたところで、

藤丸詩織は長谷司とこの問題について議論するのを止め、院長の方を向いて言った。「この少女に開頭手術を行いたいのですが、手配していただけますか?」

衛宮院長は何度も頷きながら答えた。「もちろんです!」

長谷司はそれを聞くと、急いで口を開いた。「手術が失敗したらどうするんですか?その時、子供の直系親族が必ず…」

院長は長谷司の言葉を遮った。「何が起きても、私が全責任を負う!」

藤丸詩織は「ご心配なく、自信があります。何も問題は起きません」と言った。

長谷司は冷ややかに鼻を鳴らし、頭の中では既に藤丸詩織が手術に失敗し、患者の家族が騒ぎ出す場面を想像していた。

桜井家。

桜井蓮は絶え間なく冷気を放ち、暗い表情で書類を見つめていた。

相良健司は頭を垂れ、歯を震わせ、体を小刻みに震わせていた。